今日以降の診療体制に変更があります。詳細は、診療体制でご確認ください。

【重要】受診には原則として診療情報提供書(紹介状)が必要です
(公費、妊娠・ご出産、自費診療など一部を除く)

一般外来での公費による受診、妊娠・ご出産のための受診、自費診療など一部の例外を除き、原則として診療情報提供書(紹介状)が必要です。
診療情報提供書(紹介状)がない方は、下記のボタンから診療所の検索が可能です。本件についての詳細は、「地域医療支援病院について」をご覧ください。

崎原徹裕

さきはら てつひろ

小児科部長

解説者プロフィール

日本小児科学会専門医、日本小児科学会指導医、日本アレルギー学会専門医
近年、食物アレルギーのお子さんが増えています。ネット上では根拠のない情報が掲載されることもあり注意が必要です。正しい情報を共有し、食物アレルギーを防ぐ・治す・安全に管理することを目標に一緒に頑張っていきましょう。

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 過去20年間に食物アレルギーの患者数は増加しており、特に先進国では小児の約10%に達するという報告もあります。1

 米国小児科学会(American Academy of Pediatrics,通称AAP)は、2000年の時点では「家族にアレルギーのある乳児では補完食(離乳食)を生後6か月までは開始せず、乳製品は1歳まで、鶏卵は2歳まで、ピーナッツ・ナッツ類・魚などは3歳まで与えるべきではない」との声明を発表していました。しかし、その後の多くの観察研究から、食べ始めることを遅らせると食物アレルギーの発症が増加することが報告され、2008年には「補完食の開始を遅らせてもアレルギー疾患を予防する根拠はない」と方針を転換しています。

 その後、2010年代に入り観察研究だけでなくいくつかの介入研究も報告されてきました。2015年に、イギリスからリープ試験(LEAP study)が報告され、アレルギーのリスクのある児では、生後5~10か月前後でピーナッツ蛋白の摂取を開始するとピーナッツアレルギーの発症予防に有効であること2が示され、その翌年には本邦からプチ試験(PETIT study)が報告され、湿疹のある児では湿疹の治療を行いつつ生後6か月から微量の加熱卵の摂取を開始すると鶏卵アレルギーの発症予防に有効であること3が示されました。これらの研究結果の解釈と応用には留意点もありますが、それでも「乳児期の早い時期から摂取を開始することで食物アレルギーの発症予防に効果がありそうである」ことが分かってきました。

 しかし、ピーナッツ、鶏卵と並んで有病率の高い牛乳アレルギーの発症予防については、これまで「生後14日~3か月以内に牛乳蛋白(粉ミルク)を開始すると牛乳アレルギーの発症が少ない」という結果を示した観察研究はいくつか報告されています4,5,6が、介入研究でその予防効果を証明した報告はありませんでした7,8,9

沖縄県内の4病院でSPADE study(スペード試験)を実施

 そこで今回、乳児期の早い時期からの粉ミルク開始が牛乳アレルギーの発症予防に有効かどうかを検討するため、沖縄県内の4病院(ハートライフ病院、沖縄協同病院、那覇市立病院、琉球大学病院)で出生した児を対象にスペード試験(SPADE study)を実施しました。

 対象者は、在胎週数35週以上、出生体重2,000g以上の児とし、さらに重篤な基礎疾患や合併症がある場合は対象外としました。

 参加してくださった乳児を、牛乳蛋白(粉ミルク)を生後1か月から3か月に達する前まで(正味2か月間)1日あたり10mL以上を摂取する「摂取群」と、粉ミルクは除去し母乳で不足する場合は大豆粉乳で代用する「除去群」のいずれかにランダムに割り当て、生後6か月時点での牛乳アレルギー発症率を比較しました。

 生後5日以内に参加登録されたのは518名で、このうち12名は生後1か月までに参加をキャンセルされました。生後1か月時に行ったスクリーニング検査(粉ミルク20mLを摂取)で、蕁麻疹を認めた児が1名、摂取の数時間後に嘔吐を認めた児が1名いました。症状を認めた児は研究の継続が危険と判断され、通常のアレルギー外来で診療を継続しました。

 残る504例が生後1か月時にランダムに「摂取群」か「除去群」に割り当てられ、生後3か月に達するまで以下のレジメン(スペード試験の計画)を継続してもらいました。

  • 摂取群…ミルクの摂取は1日10mL以上で月20日以上、中断は1週間以内
  • 除去群…ミルクの摂取は月10日未満、母乳で不足する場合は大豆粉乳で代用

 同時に、どちらの群の児に対しても可能な範囲で母乳栄養を継続するよう勧めました

 生後3か月以降は、ミルクの制限や指示は行わず自由に摂取してもらいました。また、介入開始から生後6か月まで毎月受診する際に湿疹の有無を確認し、必要に応じスキンケア指導およびステロイド外用剤や保湿剤での治療を行いました。

 割り当ての結果、摂取群243名、除去群249名に上記の介入を行いました。介入を開始する前の情報として、児の周産期歴や家族のアレルギー歴、ペット飼育歴、新生児期のミルク摂取状況などは両群で差を認めませんでした。

 生後6か月まで毎月受診してくださった児は、摂取群227名(93.4%)除去群235名(94.3%)でした。介入を行った児のうち、生後6か月時のミルク100mLを摂取する経口負荷試験で牛乳アレルギーと診断された割合は、摂取群2例(0.8%)、除去群17例(6.8%)となり、摂取群では有意に牛乳アレルギーの発症が少ないという結果となりました。

 摂取群の89%、除去群の83%が上記のレジメンの指示通りに摂取を実施してくださいました。また、生後6か月時の母乳継続率は、摂取群72%、除去群68%といずれも沖縄県の平均と同等の継続率を維持していました。

 研究を途中で脱退されたのは、摂取群16名、除去群14名で、その理由のほとんどが「継続的な受診が困難であったため」でした。介入期間中、粉ミルク、もしくは大豆粉乳による蕁麻疹などの即時型アレルギー症状を認めた児はいませんでした。

 本研究の結果から、生後1か月からの定期的な粉ミルクの摂取が牛乳アレルギー予防に有効である可能性が示され、さらに母乳栄養の妨げにならないことも証明されました。

 一方で、湿疹は経皮感作※1の観点から食物アレルギー発症の大きなリスク因子であるため、湿疹の管理も重要だと考えられます。また、ただ単に粉ミルクを摂取するよう指導するだけでは、母乳栄養継続への悪影響も懸念されます。このため、以下の点に留意が必要と考えられます。

  • 生後1か月から少量(最低10mL程度)でもいいので粉ミルクを定期的に摂取することで牛乳アレルギーの予防につながる可能性がある
  • 湿疹の治療も積極的に行う
  • 母乳栄養の継続も推奨する

 また、本研究では約500名の参加者のうち1名は生後1か月時のスクリーニングのミルク20mL経口負荷試験で蕁麻疹を認めました。それまでに定期的なミルクの摂取を行っておらず、安全に摂取できる量が不明の場合は初回の導入時にアレルギー症状を引き起こす可能性があります。この場合、初回導入は医療機関で行っていただくか、自宅で導入する場合はスポイトやベビースプーンなどを使用して数mLから開始し、症状がないことを確認しながら増量する方法が安全かと思われます

 まだ一般化されていない方法であるため実施にあたっては改善点もあると思われますが、今後、少しでも牛乳アレルギーで悩むお子さんが減ることを願って、この研究結果をお示しします。

 本研究にご参加くださった皆様、ご家族様に深謝いたします。

※1「経皮感作」とは

「経皮」とは「皮膚から」、「感作」とは「ハウスダストや食物などに対して免疫が働いてしまい、アレルギー反応を起こす体質になってしまうこと」を言います。

正常な皮膚は角質に守られていて、異物が侵入しにくい作りになっていますが、乾燥や湿疹・掻き傷などで角質が壊され、アレルゲンが皮膚のバリアを通過して表皮や真皮に侵入すると、免疫細胞と反応して感作が起こります。 これを「経皮感作」といいます。

参考文献

1. Prescott SL, et al. A global survey of changing patterns of food allergy burden in children. World Allergy Organ J 2013
2. George Du Toit, et.al. Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy “Learning Early About Peanut Allergy (LEAP) trial. N Engl J Med. 2015
3. Osamu Natsume, et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. The Lancet 2016
4. Katz Y, et al. Early exposure to cow’s milk protein is protective against IgE-mediated cow’s milk protein allergy. J Allergy Clin Immunol. 2010
5. Peters RL, et al. Early exposure to cow’s milk protein is associated with a reduced risk of cow’s milk allergic outcomes. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019
6. Tezuka J, et al. Possible association between early formula and reduced risk of cow’s milk allergy: the Japan Environment and Children’s Study. Clinical & Experimental Allergy. 2020
7. Lowe AJ, et al. Effect of a partially hydrolyzed whey infant formula at weaning on risk of allergic disease in high-risk children: a randomized controlled trial. J Allergy Clin Immunol. 2011
8. Perkin MR, et al. Randomized Trial of Introduction of Allergenic Foods in Breast-Fed Infants. N Engl J Med. 2016
9. Urashima M, et al. Primary Prevention of Cow’s Milk Sensitization and Food Allergy by Avoiding Supplementation with Cow’s Milk Formula at Birth: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2019