コロナ禍の医療支援と災害医療との意外な共通点

出動時の装備でラピッドカーを紹介する森元さん。『ラピッドカーは細い路地でも小回りが利き、スピーディーな移動ができます』と説明する。医師や看護師を安全に迅速に現場に運ぶため、運転技術や道路情報の収集も求められる仕事だ。
―――――ハートライフ病院はDMAT(災害派遣医療チーム)指定医療機関、地域災害拠点病院となっており、熊本地震や熊本豪雨災害などにも派遣され、活動をされていますね。
三戸

私は大学が山形で、循環器の専門医になるまでいた東北に育ててもらったと思っています。2011年の東日本大震災の時、ハートライフ病院はまだDMATの指定医療機関ではなく、お世話になった東北の支援に行くことはできませんでした。県内でうちの病院が災害に熱い病院、強い病院、頑張っている病院として認めてもらうために様々な災害関連のコースを受講し、人脈をつくり、Hospital MIMMSコースの沖縄開催などにこぎつけました。そして2014 年に兼本さんたちとDMAT養成研修を受講し、指定医療機関の認定を受けて、ようやく災害医療のできる病院としてスタートラインに立つことができました。しかし2016 年の熊本地震では、災害対応の知識や経験をもっともっと深めなければお役に立てないということを痛感させられました。そのため、その後も研修参加を繰り返し、県内2人目のDMATインストラクターとなった後の2021 年の熊本の豪雨災害では、兼本さん、森元くんとともに、まだまだ微力ですが、前回よりは納得のできる被災地での支援活動を行うことができました。

森元

はい、がんばりました!

兼本

少しでもお役に立ててよかったです。

三戸

被災地での経験、支援活動として現場だけでなく本部活動を担当したことで見える世界が変わったよね。今回のコロナでも、クラスターが発生した頃からDMATの業務調整員(ロジ)として森元くんたちには県庁のコロナ対策本部に入ってもらったり、一緒にクラスター施設への支援に行ったりもしたけど、クラスター施設への支援と、避難所への支援、対応の仕方って実はすごく似ているんですよ。

宮城

そうなんだ。

三戸

はい。行ってみてわかったんですけど、DMATの考え方がそのままコロナでも活きました。病院での入院を引き受けるだけではわかりませんでしたが、施設へ支援することで、施設内でそれ以上感染症を広げないようにできる、入院になるコロナ患者さんを減らすことができる、重症化する患者さんを助けることができる、など、三戸先生のいう「待ちの医療」と「攻めの医療」って、こういうことなんだろうなと思いました。

兼本

そうですね。以前、三戸先生が研修医の先生たちに「クラスターを起こした施設が悪いのではなく、どこにでも起きうることで、誰も起こしたくて起こしたわけではないよね」と話していましたよね。この考え方って被災地でもまったく一緒で、その時の支援の仕方を私たち看護師と一緒に研修医の先生方も教わって頂けたらいいなと思いました。

宮城

そう考えると、救急ってホントに守備範囲が広い気がする。

三戸

そうなんだよね。あと、研修医の先生たちには「沖縄で井の中の蛙になるな」って伝えたい。県外の学会、特に全国学会などでどんどん発表して、同じように頑張っている先生たちと意見交換をすることで、ハートライフ病院でやっていることは全国でも胸を張っていい、質の高い医療をしているんだということがわかると思います。コロナ禍で救急搬送が10%以上増えたにもかかわらず、救急応需率95.5%というのもすごい数字だよ。

令和2年の熊本豪雨災害では、活動拠点本部で本部側のミッションを担当。避難所の状況を確認し問題があれば、解決策を提示・支援を行う。

医療従事者の成長をサポートするハートライフ病院の魅力

アンギオ室での一コマ。『患者さんの被ばく管理も放射線技師の大切な仕事です。』と宮城さん。研修医の先生たちにも慕われており、楽しい冗談でみんなを和ませるムードメーカーだ。
――――この仕事のやりがい、逆に苦労や厳しさみたいなものはどんなことですか?
宮城

やりがいはやっぱり、僕たちが最初に病気を画像で見るので、それを見つけた時ですね。ある意味、本当にマニアですよね (笑)。ここだ!っていう。小さいものでも、骨折とか見つけたら、すぐ先生たちに「あるよ」って言いに行きたい(笑)。

森元

ドクターカーの現場で携わった意識のない患者さんが良くなっていたり、その後、元気に話している姿を見ることができるのが、病院救命士のやりがいですね。苦労というか厳しさは、現場対応の難しさですね。自己採点すると50点以下のことも多々あります。まだ歴史が浅い病院救命士の業務についても、もっと活動範囲を充実できるよう、努力や勉強を続けてがんばりたいです。

兼本

救急看護の全てが私にとってはやりがいで、救急に対して「大変そうだな」「忙しそうだな」というネガティブなイメージはなく、私はポジティブに捉えていますね。
患者さんが良くなることはもちろん、つらい状況で患者さんやご家族のそばで看護ができるのは救急看護しかできない部分だと喜びを感じます。気をつけているのは健康管理とかメンタル面のコントロール。救急では特に大事です。その点でもうちの病院は周囲のスタッフや病院のサポートがとても手厚いと感じますね。

三戸

ERを受診した方や心肺停止状態で搬送された患者さんが、元気に外来に来てくれると、この仕事をやっていてよかったなと心から思います。苦労や辛さはほとんど感じたことはないですね。「この病院で診てもらってよかったです。ありがとうございました」と言ってもらえた時には、この病院で、このチームで、いい医療やいい看護が提供できたのかなと感じますね。こんなに「ありがとう」を言ってもらえるなんて、本当にいい仕事だなと思います。
「ありがとうね」という言葉は本当に一番効きますね!

――――医療従事者に求められる資質とは?研修医や医大生を含め、医療従事者を目指す若い世代へ、ご自分の経験を通したメッセージやアドバイスをお願いします。
宮城

やっぱり「助けたい」という気持ちですよね。

三戸

「助けたい気持ち」があることは大前提です。

宮城

あとは人と接するので、コミュニケーション能力も大事。だから日頃から先生方や看護師のみなさんと気軽に話すようにもしていますね。

兼本

チーム力ということを考えると、私もコミュニケーション能力は大事だと思う。いろいろな経験をたくさん重ねて、失敗や苦労もしながら身に付けて欲しいです。

三戸

それから“仲間を増やせる力があるか”も大事。そのためには日頃からスタッフと仲良くするといいよね。ERでは救急医だけでなく、各科の医師、研修医の先生たち、ER看護師、救命士、放射線技師、その他、救急に関わるいろいろな職種が集まるので、コロナ以前によくしていた歓迎会や送別会、親睦会などもいい潤滑油や緩衝材になっていました。ONはめちゃめちゃ頑張ってOFFもめちゃめちゃ楽しむ、みたいなね。

宮城

ここ2年間はコロナのせいでできなくて寂しいです。落ち着いたら復活させたいですね。ホント、ハートライフ病院って医療従事者も事務方のスタッフも本当に仲が良くて、病院全体が和気あいあいとしてます。

森元

病院と消防の仲もいいですよ。病院内の実習の受け入れも行っていますし、救急での連携も非常に取りやすいです。消防のみなさんからも「ハートライフ病院の実習はわかりやすい」と言ってもらえてうれしいです。

三戸

消防と仲がいい病院ってそんなにないよね。

森元

はい。救命の現場ではコミュニケーションがスムーズなことは大事ですから。

三戸

そういえば兼本さんは今、救急を離れて病棟で研修中だね。

兼本

はい。循環器と呼吸器の病棟で部署間研修中です※1。これまで救急一筋で来ましたが、以前から患者さんの入院から退院までをすべて診られると、さらに救急看護の質の向上や自分自身のやりがいになり、救急のスタッフの教育やサポートに生かせるんじゃないかと考えていました。うちの病院は勉強したい人を応援して学ばせてくれますよね。教育に対する深い理解には本当に感謝しています。ハートライフ病院は組織のバックアップがあるので、働きながら自分のやりたいことや学びを深める道が広がると思います。

※1 取材時は病棟で勤務。発行日時点では救急外来に戻り勤務している。

三戸

ワークライフバランスも理想的ですよね。研修医や医師の休みもきちんと確保されています。

宮城

あとうちの病院、退職しても復職する人って多くない?

兼本

確かに。救急でも出産や退職後に復職する看護師が多いですね。

三戸

「困っている人を助けたい」と思っている人は医療従事者に向いていると思います。医師や看護師が目立つかもしれませんが、救命士や放射線技師、臨床工学士、検査技師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーなど、「困っている人を助けたい・お手伝いしたい」という気持ちがある人はぜひ医療従事者を目指して、こっちの世界に来てください!