身近な乳がん~早期発見 ブレスト・アウェアネスと治療の進歩~

身近な乳がん~早期発見  ブレスト・アウェアネスと治療の進歩~

乳がんの現状と早期発見の重要性

乳がんは今や日本人女性が生涯で9人に1人発症する非常に身近ながんで、年間10万人弱が発症します。一方で、ステージ1の方の5年生存率はおよそ99%と早期で発見できれば命を失うことのないがんの代表となっています。しかし発見契機では約1/3の方が乳がん検診で発見される一方、未だに約半数の方がしこりを自覚され受診しています。おそらくその患者さんの多くは我々専門医のマンモグラフィ・乳房超音波を用いた検診ならば数年前により早期に発見でき、再発を減らすだけでなく術後の薬物療法も回避できた可能性さえあります(図1)。

乳がん検診の課題とブレスト・アウェアネスの重要性

乳がんの発症年齢に関しては40代と60代の2つのピークがあり、最近では後者の割合が増加傾向です。40代では家庭でも社会でも女性のライフスパンを考えても最も責任のある重要な立場であることも多く、治療による家庭や就業へのダメージは少なくありません。またご家族のために精一杯でご自分の身体に注意が向き難い時期でもあり、検診受診が疎かになることもあるでしょう(図2)


乳がん検診はマンモグラフィを基本として、40代への乳房超音波併用の有用性が日本から発信され、より精度高く乳がんを発見できる様にはなってきましたが、上記の様に一番検診を受けて頂きたい年齢では時間をとれない方も少なくありません。また欧米に比べ若年発症も多い傾向から、40歳未満の検診の適応年齢でない方の不安も考慮しなければなりません。決して検診の代用ではありませんが、早期発見の大事な習慣として近年「ブレスト・アウェアネス」が提唱されています。これは「普段の乳房の状態を知る」「変化に気を付ける」「変化に気づいたら医師に相談」「乳がん検診を受ける」により、乳房の異常をご自分で気付こうとするもので、どの年齢でもご自分の身体を大事にする習慣の1つとして広がっていくことを期待します(図3)。

閉経後の乳がんと生活習慣改善の重要性

かたや閉経後の乳がんは特に「過体重」「不活動性」「糖尿病」「飲酒」「喫煙」がハイリスクと考えられ、いわゆる中年太り、運動不足と不摂生が大きな誘因と考えられます。沖縄に目を転じますと肥満率やアルコール消費量、定期的運動習慣の無さは全国上位にあり、高齢者の乳がんも他県より多いことからも生活習慣の改善が大きな課題です。「規則正しい生活を心がける」と乳がんは減少する可能性があるのです(図4、5)。

治療の進歩

乳がん治療は「外科療法」「薬物療法」「放射線療法」、さらに最近では「免疫療法」で4つの柱から構成されます。手術はより低侵襲手術が標準化され、乳房温存術はがんを切除するという基本を押さえつつ整容性(形の良さ)も両立できるように進歩・発展し、脇のリンパ節も見張りリンパ節のみを摘出するセンチネルリンパ節生検の普及により顕著にリンパ浮腫発症が減少しました。また乳房再建手術もシリコンインプラント手術の保険適応により増えており、乳房消失の精神的ダメージを軽減できるようになってきました(図6)。


手術前後の薬物療法では、5つの亜分類と遺伝性乳がんに対して標準的な治療がほぼ整い、本当に有効な治療を安全に実施することが求められています(図7)。

特に「再発が怖いから念のため実施」の傾向があったホルモン感受性乳がんへの抗がん剤(殺細胞性化学療法)の上乗せ効果は、保険適応となった多遺伝子検査にて臨床的に必要と考えられていた60%程の患者さんが不要に転じる報告もあります。HER2(ハーツー)陽性早期乳がんでは併用抗がん剤を1種類減しても同等の効果となり患者さんは随分楽に治療ができるようになりました。逆に高悪性度トリプルネガティブ乳がんへは免疫チェックポイント阻害剤を併用することで明らかな治療効果の向上が得られることに、あるいは術前薬物療法をして治療効果が十分でない場合、もう1つの治療を追加することで更に30~50%再発が減ることが明らかになりました。同時に副作用を抑える治療の進歩も著しく、嘔吐のない治療が大多数となり、白血球を増やす薬の併用で治療中の重症感染症も激減しています。
残念ながら進行再発された方への薬物療法も日々進歩しており、抗がん剤・ホルモン剤に分子標的薬を併用することで5年以上の生存期間も日常的に報告されており、更には10%程度の方が腫瘍が存在しないある種の寛解状態になることができる時代となりました。
またACP(アドバンスケアプランニング)やSDM(シェアードディシジョンメーキング)といった、治療中も患者さん中心で個々の価値観を優先した治療を進める考え方も乳がんではいち早く浸透しており、その方らしく生きることを支えていくことが我々の本望となっています。

さいごに

小職は30年の乳がん診療経験をもって2024年9月にハートライフ病院乳腺外科センターに着任しました。幸いにもスタッフの温かく協力的なサポートで、診断から手術、薬物療法までスムーズな診療体制が確立され、Suture Scaffold法という新たな美しい乳房温存術、乳房再建手術も定着し、殆どの高度な薬物療法の実践が可能となりました。何よりもがん専門・乳がん看護認定看護師を中心とした患者さんの心に寄り添うケア体制が優秀なスタッフの尽力で構築され、私自身も安心して治療が進められる環境になりました。この奇跡的な環境の中で、患者さんお1人おひとりに丁寧に、満足して頂ける医療を提供してまいりますので、検診から治療に関するセカンドオピニオン、また治療施設としての見学等いつでも承りますので、どうぞご用命いただければ幸いです。

著者 -Author-

ハートライフ病院 乳腺外科センター長

柏葉 匡寛(かしわば まさひろ)

【プロフィール】
大学院で乳腺病理学、米国でがんの遺伝子異常、免疫、遺伝子治療を研究、その後大学病院で日常診療と並行し多くの薬剤開発、医師主導試験に携わり、30年に渡り乳がんを専門に診療を行ってきた。また質の高い医療と患者さんのより良い生き方の共存を目指し「チーム医療」を早くから実践。2024年9月より現職。
【学会認定および所属学会】
日本乳癌学会指導医、日本乳癌学会専門医、日本外科学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会評議員

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