令和2年7月豪雨 DMAT熊本派遣

令和2年7月豪雨 DMAT熊本派遣

DMAT(Disaster Medical Assistance Team)

 

 DMATは1995年の阪神淡路大震災で、平時の救急医療体制が維持できていれば、救命できたと思われる「避けられた災害死」を教訓として、「一人でも多くの命を助ける」ために大規模災害や多数傷病者が発生した現場で活動できる専門的な訓練を受けた「災害派遣医療チーム」として2005年から運用されています。その後、2007年の新潟中越沖地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震などの自然災害に加え、2020年2月の新型コロナウイルス感染が発生したダイヤモンド・プリンセス号にも 派遣・活動が行われました。
 当院は2014年にDMAT指定医療機関となり、統括DMATとして登録された医師2名と看護師3名、業務調整員3名の8名が在籍、熊本地震以来のDMAT派遣となりました。

熊本豪雨 

 令和2年7月3日から梅雨前線の影響で九州には多数の線状降水帯が発生、九州南部では24時間で400mmを越える猛烈な雨となり、熊本県南の球磨川水域13箇所が氾濫しました。熊本豪雨は4日の午前4時50分に気象庁により大雨特別警報が発表され、午後10時に宮崎・佐賀・福岡DMATへの出動要請がかかり活動を開始するも、道路崩落、土砂崩れ、冠水のためライフラインが寸断され、被害が非常に大きいことから6日午前に沖縄を含む九州のDMATに加え、中国・近畿DMATにも出動要請がかかり、当院DMATも翌朝からの派遣へ備え、準備をすすめることになりました。

ハートライフDMATの対応 

 6日午後から派遣期間中の業務調整をしながら災害支援に必要な点滴や薬剤、衛生用品、医療資機材に加え、土砂災害現場での活動に必要な長靴や雨合羽、再流行の兆しのあった新型コロナウイルス感染対策、活動期間中の食料や飲料水などの準備と、熊本地震でのDMAT派遣で重要性を痛感した患者搬送可能な緊急車両(ドクターカー)をフェリーで運ぶ調整などを半日かけて行いました。

 7日朝に空路と海路にチームを分け出動、熊本労災病院に設置された県南保健医療調整本部へ参集すると、当院DMATは本部内の避難所を支援する部門を任されることとなり、発災初日から活動していたDMATから業務を引き継ぎ、活動場所を変えながらも10日の夕方まで4日間、被災地の避難所の支援を行いました。

避難所支援

 本部として、市町村をまたいで増えてくる避難所を把握、指定避難所だけでなく、孤立集落での避難場所や、プライバシーや防犯、三密を避けるなどの理由で自主避難された方たちの避難所、体調を壊される方が増えてくる傾向がある避難所や持病の薬が足りなくなる避難者を把握し、優先的に医療チームや 保健師の介入を調整することが重要な活動でした。

 現場の支援として必要時は診療、災害処方もできるDMATを直接派遣、避難所の医学的な評価(支援物資の不足、衛生環境の問題、在宅酸素療法や維持透析を受けている方の把握、発熱や咳、胃腸症状のある方がどのくらいいて、どんな医療支援が必要かなど)や保健師と連携し巡回する診療を当院DMATも行いました。

沖縄本島全域に大きな台風が停滞、被災した場合を想像してみましょう。

自宅には土砂が2階まで流入し、生活はできそうにありません。
地域は停電・断水し、固定電話も携帯電話も不通です。
集落から出るための道路は崩落し、自力で集落から出ることは困難です。

小学校の体育館に避難所ができたと聞き、家族みんなで避難することにしました。

咳をしている高齢者、走り回る子供達、避難所内で苦手な犬の鳴き声がします。
トイレに行ってみましたが、下水道が復旧しておらず、衛生的とは思えません。
支援物資は山積みになっていますが、箱に何がはいっているか把握できません。

DMATが自衛隊と一緒に避難所に入り、道路の復旧には数日かかるとわかりました。

DMATの持つ衛星電話を使って連絡手段、ネット環境が確保できました。
避難者情報を整理することで、不足する食料や生活用水、寝具を請求しています。
管理者を決め、避難所内のルールを作り、衛生環境を整えることができました。

高齢者の具合が悪そうです、緊急車両でも病院まで片道1時間かかるそうです。

DMATは持病や生活背景などの情報を収集し、搬出の優先度リストを作り始めます。
搬送中に具合が悪くならないように、重症感のある方には点滴をはじめます。
お薬手帳を調べ、足りなくなる薬、緊急性の高い薬を届けるよう請求しています。

被災地内の病院は、すでに救急車や自家用車で受診された患者さんで溢れています。

消防も急増した被災に伴う救助要請に加え、通常の救急搬送で救急車も足りません。
保健所・保健師への電話はなりっぱなしで、避難所を見に行く余裕もありません。
被害が大きく診療継続が困難で、入院患者全員の転院を希望している病院も増えてきています。
県庁の災害対策本部には自病院の活動のため県内DMATは参集できていません。

全く同じ災害はありませんが、同じような災害対応が必要となる災害はたくさんあります。

「一人でも多くの命を助けるため」「避けられた災害死をなくすため」過去の経験を教訓に、様々な災害で活動をしているDMATに支援に来てもらえると助かると思って頂けましたか?
ハートライフ病院ではこれからもDMAT指定医療機関として、災害で困っている被災地を支援する活動を続けながらも、沖縄が被災した時には地域災害拠点病院として地域の皆様の日々の暮らし、生活を守っていけるように、これからも精進していきたいと考えております。

著者 -Author-

ハートライフ病院救急総合診療部 救急部長・DMATインストラクター
三戸 正人

プロフィール

2008年よりハートライフ病院 循環器内科として勤務。2012年より救急総合診療部 副部長、2020年より現職。

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