大腸がんについて

大腸とは

大腸は1.5~2mほどの長さの臓器で、結腸、直腸S状部、直腸に分けられます。大腸は小腸に続いて右下腹部から始まり、右上腹部→左上腹部→左下腹部へ至り、肛門へつながります。

結腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分けられます。結腸と直腸の間に直腸S状部があります。直腸は上部直腸と下部直腸に分けられます。

大腸癌の発生するしくみ

大腸癌は大腸粘膜の細胞から発生します。もともとは正常な細胞が何らかの原因で癌細胞に変化します。発生した癌細胞は分裂を繰り返し、何十億から何百億に増えると目に見える大きさになります。

大腸癌の発生には2つの経路があると考えられています。1つは良性のポリープである腺腫が癌になる経路です。もう1つは発癌刺激をうけた正常粘膜から直接癌が発生する経路です。

大腸癌の疫学

日本人の死因の第1位は悪性新生物(癌や肉腫)です。悪性新生物のなかでは、胃癌の死亡率は減少していますが、肺癌、大腸癌、肝癌は増加しています。大腸癌の死亡率は女性では第1位、男性では、肺癌、胃癌、肝癌に次いで第4位です。

大腸癌の死亡数で表すと、昭和30年(1955年)には男性2079人、女性2160人でしたが、平成18年(2006年)には、男性22380人、女性18653人となり、半世紀でおよそ10倍になりました。

ステージ分類

癌の広がり具合をステージ(病期)で表します。ステージは、癌が大腸壁に入り込んだ深さ(深達度)、どのリンパ節までいくつの転移があるか(リンパ節転移の程度)、肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜への転移(遠隔転移)の有無によってきまります。

ステージ0が最も進行度が低く(最も早い段階で発見されたもの)、ステージⅣが最も進行度が高い状態です。治療方針を決定するのに、治療前にステージを予測する事が重要です。

・ステージ0:癌が粘膜の中にとどまっている。

・ステージⅠ:癌が大腸の壁(固有筋層)にとどまっている。

・ステージⅡ:癌が大腸の壁(固有筋層)の外まで浸潤している。

・ステージⅢ:リンパ節転移がある。

・ステージⅣ:血行性転移(肝転移、肺転移など)または腹膜播種がある。

大腸癌による症状

大腸癌の症状は、大腸のどこのどの程度の癌ができるかによって異なりますが、血便、下血下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、原因不明の体重減少などが多い症状です。中でも血便の頻度が高いのですが、痔など良性疾患でも同じような症状があります。時には、嘔吐などの癌による腸閉塞症状で発見されたり、肺や肝臓の腫瘤として大腸癌の転移が先に発見されることもあります。

ただし、これらの症状の多くは進行癌の状態であり、早期癌のほとんどは無症状のことが多いです。

大腸癌の検査法

検診法:症状がない場合の検査方法で、便潜血反応で便に混じった血液を検出する検査法です。陽性であれば、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)や注腸造影検査を行い、病気の有無を調べます。早期発見に極めて有効な手段です。

診断法

①直腸指診:肛門から直腸内に指を挿入し、直腸内の腫瘍を検索します。

②注腸造影検査:肛門からX線に写る液体(バリウムなど)を空気とともに流し込んで、大腸を写しだし、その形の変化から病変を診断する方法です。あらかじめ、検査食や下剤などをつかって、大腸を空にします。癌がある場合はその大きさや場所、周囲の内臓との位置関係を把握します。

③大腸内視鏡検査:内視鏡を肛門から挿入して、内側から観察します。あらかじめ下剤を使って大腸を空にします。良性ポリープや癌を直接観察することができます。顕微鏡による診断のため、癌やその疑いのある病変から細胞を採取することができます。ポリープや早期癌を切除することもできます。

治療方針を決めるために必要な検査

①胸部X検査:肺転移の有無を調べます。肺は肝臓に次いで大腸癌の血行性転移が起こりやすい臓器です。

②腹部胸音波検査(エコー):大腸癌と周囲の臓器の位置関係、肝転移やリンパ節転移の有無を調べます。

③CT検査:大腸癌と周囲の臓器の位置関係、肝転移、肺転移やリンパ節転移の有無を調べます。

④MRI検査:大腸癌と周囲の臓器の位置関係、肝転移やリンパ節転移の有無を調べます。特に直腸癌の周囲への広がりを詳細に調べることに適しています。

⑤PET検査:上記の検査で診断がはっきりしない場合などに行われることがあります。

大腸癌の治療法

・内視鏡治療

大腸内視鏡を使って大腸の良性ポリープや癌を切除する方法です。ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術があります。腫瘍の形や大きさに応じて使い分けます。ポリペクトミーはきのこ型の茎をもったポリープに対して用い、内視鏡的粘膜切除術は平たい腫瘍に対して用います。ともに、スネアという金属製の輪をかけて、高周波電流を流して、焼き切ります。この治療の適応は、大きさが2cm未満であり、良性と判断したポリープやリンパ節転移の可能性がほとんどない粘膜癌と粘膜下層浸潤癌のうち浸潤度が軽いものです。近年、ポリペクトミーで一括切除できない大きな病変に対して、内視鏡的粘膜下層剥離術が開発され、外科手術しなくても病変が取れる患者様が増えてきています。切除した癌の病理結果によっては、外科的切除が必要となる場合があります。

・手術治療

手術治療では、病変を含んだ腸管とリンパ節を切除します。腸管の切除は、結腸癌だと癌から10㎝離して切除します。直腸癌だと肛門側は2~3㎝離して切除します。リンパ節の切除をリンパ節郭清といいます。癌は病変の近くにあるリンパ節から順に遠くへ転移していきます。癌の大腸壁への浸潤の深さによって、リンパ節郭清の範囲が決定されます。

直腸癌では、肛門を残せない場合があり、永久人工肛門となることもあります。また、肛門が残せても一時的に人工肛門をつくることもあります。

近年、手術器具や光学器の進歩に伴い腹腔鏡手術がひろく行われるようになっています。腹腔鏡手術は炭酸ガスで腹部を膨らませて、腹腔鏡という内視鏡で観察しながら、4-5カ所に小さな創(ポート)から5mm程度の手術器具をいれて手術を行う方法です。癌の大きさや部位、リンパ節転移の程度など総合的に評価して、腹腔鏡手術の適応を決定しています。手術治療の合併症として、縫合不全や腸閉塞、創感染などがあります。腸管をつないだ部分(吻合部)が漏れる事を縫合不全といい、結腸癌で1.5%、直腸癌で10%に起こるとされています。縫合不全が発生した場合は、一時的な人工肛門をつくることもあります。

当院では上記のすべての治療法に対応しています。患者様ごとにどの治療法が最適か、消化器の専門の外科医と内科医が毎週カンファレンスで検討の上、決めています。

・薬物療法

癌に作用する薬を抗癌剤といい、細胞を死滅させたり、癌が大きくなるのを抑える作用をもっています。注射薬と内服薬があります。近年、薬物療法の進歩で、分子標的治療薬(標的となる細胞の特定分子に結合して狙い撃ちすることで、がんを抑える効果が期待される)、免疫チェックポイント阻害薬(がん細胞が免疫にかけているブレーキを解除して、免疫の攻撃力を取り戻す)などが開発され、治療効果が向上しています。

薬物療法の目的は2つあります。1つは手術後の再発を予防することで、補助化学療法をいい、おおよそ6ヶ月で修了します。もう1つは手術ではとりきれない癌を抑えるで延命するための治療です。これは何年も続くことがあります。抗癌剤の副作用は様々であり、個人差も大きいです。副作用を抑える薬を併用しながら治療します。副作用の詳しい内容は担当医および専門の薬剤師から説明があります。

・放射線治療

放射線とは目に見えない小さな粒子が非常に大きなエネルギーをもって飛び出す状態、あるいはX線などの電磁波が広がる状態のことをいいます。放射線には細胞の中にあるDNA(遺伝子の材料)を傷つける作用があります。放射線治療は癌細胞のDNAを傷つけて、癌細胞が死滅するように作用します。一部の直腸癌や癌の痛みの緩和のために使われることが多いです。当院では放射線治療は行っていないため、放射線治療が必要と判断される患者様は他施設へ紹介しています。

大腸癌の予防法

大腸癌では、直系の親族に同じ病気の人がいるという人は、リスクが高くなります。特に家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸癌家系は、確立したリスク要因とされています。

生活習慣では、過体重と肥満で結腸癌リスクが高くなることが確実とされています。また、飲酒や加工肉は、大腸癌のリスクを上げるものとされています。逆にリスクを下げる確実なものとして適度な運動、可能性大なものとして野菜・果物、にんにく、牛乳、カルシウムのサプリメントが上げられます。

次のページでは2018年の大腸癌の生存率について解説します。