①対象期間 2006/1/1~2012/12/31
②観察終了日 2013/08/31
③予後調査 当院来院歴情報
他施設来院歴照会
市町村住民票及び住民票除票照会
④データ算出方法 カプランマイヤー法
実測生存率
全症例数
(内訳)
198名
(男:134名、女:64名)
男女比 2.1:1
平均年齢 65.7歳
消息不明数 12
Stage判明率 100%
消息判明率 93.9%
  病期 症例数 死亡数 3年 5年
病期別 ⅠA 84 5 97.3% 89.4%
ⅠB 34 11 64.3% 64.3%
15 5 59.7% 59.7%
22 11 55.4% 48.5%
43 36 6.7% 6.7%
全症例 Ⅰ~Ⅳ 198 68 65.0% 60.0%

1. 胃癌の男女別年齢分布図

胃がんでは、男性の60代後半に最も多く、次いで70代後半となっております。女性では、60代前半に最も多く、次いで80代前半となっております。

2.胃癌の男女割合

当院の患者さんの男女比は、2.1:1となっております。全国的にも、男性が女性の2倍あると言われており、当院も同様の結果でした。

3. 胃癌の病期別症例数

当院の胃癌の病期別症例数は、図のごとく病期ⅠA期:84例/42.4%、病期ⅠB期:34例/17.1%、Ⅱ期:15例/7.5%、Ⅲ期:22例/11.1%、Ⅳ期:43例/21.7%でした。

4-1.  全体の生存曲線(カプランマイヤー)

当院の5年生存率は、ⅠA期:89.4%、ⅠB期:64.3%、Ⅱ期:59.7%、Ⅲ期:48.5%、Ⅳ期:6.7%でした。胃癌ガイドラインでは、ⅠA期:93.4%、ⅠB期:87.0%、Ⅱ期:68.3%、ⅢA期:50.1%、ⅢB期:30.8%、Ⅳ期:16.6%でした。また、当院の病期ⅠB期において、11名が死亡となっていますが、うち5名が癌死(うち3名が高齢のため手術なし、2名が手術ありの再発)で、2名が他病死、4名が死因不明(住民票照会等)となっておりました。つまり、ⅠB期で胃癌標準治療を行ったにもかかわらず、死亡したのは2名でした。

【全体の生存曲線】

4-2.  75歳未満の生存曲線(カプランマイヤー)

胃癌においては、75歳以上を外した75歳未満の生存曲線も出しております。高齢者を含む実測生存率(他病死も含む)との違いは、IB期で著明に差が出ました。

【75歳未満の生存曲線】

胃がんについて

胃とは

 食べ物を飲み込むと食道という胸の中にある細い管を通ってお腹の中にある胃という袋のようなところに入ります。胃は上腹部にあり、胃の入り口を噴門、出口を幽門、中心部を体部と呼びます。胃はその3分の2のところでカーブしておりここを胃角部といいます。胃の主な機能は、食べ物を貯留することと、消化液である胃液と食べ物を混ぜて消化しやすい状態となった後、少量ずつ十二指腸へ送ることです。食べ物の消化や栄養分の吸収は、主に小腸で行われます。

胃の壁は5層に分けられます。内側より順番にならべると

  1.  直接食べ物と接する粘膜
  2.  その下の繊維組織である粘膜下層
  3.  厚い筋肉層
  4.  繊維組織である漿膜下層
  5.  一番外側の薄い膜である漿膜

となります。

胃癌とは

 胃癌は胃の粘膜から発生します。胃には外からいろいろな食べ物が入ってきます。その中には発癌性のあるものも含まれています。また、タンパク質を分解する胃液という酸性の消化液が出てきます。さらにはピロリ菌という細菌が住みついて胃粘膜を荒らします。このようにいろいろな刺激にさらされるため、潰瘍ができたり、癌ができたりするのです。胃癌は近年減少傾向にあるものの日本人に多い病気ですので、40歳を超えたら毎年検診を受けることが望ましいです。消化器の癌の中で胃癌は大腸癌と並んで治りやすい癌の一つです。これは早期癌で見つかることが増えたことや、安全にしかも十分な手術が出来るようになったからです。

胃癌の症状

初期のころは、なんの自覚症状もないことがほとんどです。また、症状が現われても、胃癌特有のものはありません。

なんとなく胃のあたりが重い、食欲がない、味覚が変わった、胸焼けやげっぷが多くなった、口臭がきつくなった、吐き気がするなど、ほかの胃腸の病気でみられるものと同じです。また、初期のころは痛みをともなうことはまれです。癌が進行すると、先に述べた症状がしだいに強く現われてきたり、常に感じられるようになります。体重も徐々に減少します。

さらに進行すると、胃のあたりにかたいしこり(腫瘤)を触れるようになったり、おなかに水(腹水)がたまったりします。胃癌から出血がある場合には、吐物の中に血液がまじったり(吐血)、便がコールタールのように黒くなったり、血便がみられることもあります。

このころになると貧血が進み、全身衰弱が目立つようになります。

肝臓や肺・骨・脳などの臓器に転移すると、転移した臓器やその程度により、さまざまな症状が現われます。

胃癌の広がり方

 胃癌は胃の壁の内側の粘膜にできます。進行するにつれて、胃の壁を粘膜から粘膜下層、筋肉層、漿膜下層、漿膜へと深くもぐり込んでいき、ついには胃の壁を全部突き抜けることになります。こうなると胃の近くの膵臓や大腸などの他の臓器に広がったり、お腹全体の腹膜に癌細胞が散らばったりします。また、別の広がり方として、リンパ液や血液に入り込んで、リンパ節に転移したり、肝臓や肺などの他の臓器に転移したりすることがあります。

胃癌の進み具合(病期、ステージ)

癌の広がりが粘膜だけにとどまっている状態から、他の内臓に転移している状態までを病期あるいはステージで分けます。分け方としては、癌が胃の壁のどの深さまで進んでいるか、またどこのリンパ節に何個転移があるのか、他の内臓に転移がないかを総合的に判断して、病期がⅠA、ⅠB、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、Ⅳの8つに分けられます。病期によって、適切な治療法が決められます。

胃癌の検査と診断

胃癌の発見には、胃X線透視(とうし)と胃内視鏡(いないしきょう)が大きな役割を担っています。

胃X線透視(上部消化管X線検査)は、市区町村や職場の検診で広く行なわれています。バリウムと呼ばれる白い造影剤を飲んで行なう検査ですが、癌の全体像をとらえたり、胃の中における癌の位置を、より正確に知ることができる点で優れています。

胃内視鏡(上部消化管内視鏡検査)は、弾力性のある細いファイバースコープを口から挿入して行なう検査です。ファイバースコープは改良がすすみ、以前にも増して細くやわらかくなっていますし、のどに麻酔(ますい)をするなどの処置を行ないますので、苦しい検査ではなくなりました。また、この検査は、疑わしい胃粘膜の組織を直接採取することができます。この組織を顕微鏡で見ることで、癌か否かが正確にわかるのです。

胃X線透視も胃内視鏡も、日本の診断技術は世界のトップレベルにあります。いずれの検査も外来で受けられますが、検査前日の食事や飲酒・喫煙は控えめにし、当日の朝は食事をとらずに検査に臨(のぞ)みます。常用している内服剤がある人は、検査担当の医師と相談してください。検査の際に使う薬により、目がかすんだりしますので、検査当日は、車の運転や自転車での来院は控えたほうがよいでしょう。

胃癌が発見された場合は、ほかの臓器に転移していないか調べるために、超音波・CTスキャン・MRI・血管造影(けっかんぞうえい)などの検査が追加されます。また、早期胃癌の場合、内視鏡による処置で取り切れることもありますから、その適応を決めるため、さらに詳細な胃内視鏡検査や超音波内視鏡検査が追加されることもあります。

また、癌がからだのどこかにできた場合、血液中で特殊な物質の数値が上昇することがありますので、血液検査も行ないます。これらの物質を腫瘍マーカーといいますが、胃癌特有のマーカーはなく、すべての胃癌患者でマーカーが上昇するわけでもないので、胃癌の早期発見には用いられていないのが現状です。

胃癌の治療

胃癌と診断されたら、できるだけ早期に治療を受けるのが原則です。切除可能ならば手術を行ない、補助療法として抗癌剤や免疫賦活薬を、手術の前あるいは後に併用します。

  • 手術

手術方法は、胃癌の発生した場所や、広がりの程度、他の臓器への転移の有無によってちがいます。一般的には、癌組織を含めて十分な範囲の胃を切除したうえで、転移の可能性がある胃の周囲のリンパ節を除去するために、リンパ節の摘出(リンパ節郭清)を行ないます。

早期胃癌であれば、癌を完全に取り切って永久的な治癒を目指す「根治手術」が行なえます。このような癌に対しても、以前は広く大きく切除することが大原則でしたが、癌が完全に治って(根治して)、手術後長期間生存できる人が増えてきた昨今では、根治性を損なわない程度に、小さい範囲で切除する治療も広く受け入れられるようになってきました。

たとえば、内視鏡を使って、粘膜内にとどまるごく早期の癌を切除する「内視鏡的粘膜切除術」を行なえば、おなかを切り開く必要もなく、入院も短期間ですむうえ、胃の形や機能が損なわれることがないので、術後の障害がほとんどありません。

また、一部の施設では、おなかに内視鏡を挿入して、おなかを大きく切り開かずに胃の部分切除を行なう「腹腔鏡下手術」も導入されて良好な成績をあげています。手術後の機能障害が少なく、手術創が小さいので、社会復帰が早いのが利点です。

一部の進行癌でも「根治手術」は可能ですが、浸潤の程度が進んだ場合や、他の臓器への転移がある場合は、症状を改善するための「姑息的な手術」が行なわれることもあります。

その一例として、食物の通過障害がおこっている場合に行なわれるバイパス手術があります。胃の切除範囲は、部分切除の場合と全部摘出する場合がありますが、必要に応じて周囲の臓器(脾臓、膵臓、肝臓、横行結腸など)を同時に切除することもあります。

切除した胃は再生されませんが、再び食事が摂れるようにするために、食物の通り道を再建する処置を施します。

  • 手術が不可能な場合

広い範囲に転移をおこしているなどの理由で手術が不可能な場合は、抗癌剤を用いる化学療法や、免疫療法が行なわれます。

  • 手術後の療養


手術直後は口から飲食物を摂ることができませんので、その間は点滴で栄養を補います。口から飲食物が摂取できるようになるのは(手術術式によって多少の差がありますが)3日目~1週間前後です。

まず水分から始め、流動食から徐々にふつうの食事にもどしていきます。胃を切除した後は1回に摂れる食事の量が少なくなるため、当初は1日に5~6回に分けて食事をする必要がありますが、しだいに1回の食事量が増えて、ふつうの人と同じように食事が摂れるようになります。ただし早食いは厳禁です。

手術創の糸が抜け(抜糸)、からだに入っていた排液管などが抜けると、入浴も可能になり、退院するのも間近となります。

手術後の社会復帰については、個人差がありますので、担当医とよく相談してください。

  • 手術後の後遺症

胃を切除すると、胃の食物貯留機能が低下・消失するために、消化吸収障害・下痢・ダンピング症候群(めまい、頻脈、発汗など)・逆流性食道炎(胸やけ)などの後遺症がおこることがあります。手術による癒着や暴飲暴食などが原因で腸閉塞をおこすこともあります。また、貧血や骨代謝異常(骨粗しょう症、骨軟化症など)・胆石の発生が手術後長期間たってからおこる場合もあります。

手術後の再発防止や後遺症予防のために、定期的に外来を受診し続けることが必要です。

  • 化学療法

癌の再発を予防するために、あるいは手術では取り切れなかった癌をたたくために、抗癌剤を使用することがあります。使用方法は内服の場合や点滴の場合などがあり、薬剤としてはフルオロウラシル(5FU)やその類似物、シスプラチン、イリノテカン、タキサン系などが単独あるいは併用で用いられています。

  • 免疫療法(めんえきりょうほう)

その人自身がもつ免疫機能を高める治療法です。免疫強化薬(ピシバニール、クレスチン、レンチナンなど)が広く用いられています。

  • その他の治療

放射線治療や温熱療法などが試みられていますが、十分な効果をあげるには至っていません。

胃癌の予防法

食生活については、塩分の多い食品の摂取や、野菜、果物の摂取不足が指摘されています。また、ヘリコバクターピロリ菌については、日本人の中高年の感染率 は非常に高く、若年層では低下していますが、感染した人の全てが胃癌になるわけではありません。現在、除菌療法が胃癌リスクを低くするという研究結果 が集積されつつありますので、感染していることがわかれば、除菌療法が推奨され、定期的な胃の検診を受けることが勧められます。