大腸がんで死なないために

大腸がんで死なないために

長寿県陥落

沖縄県といえば、長寿県のイメージがあります。1995年に当時の大田 昌秀沖縄県知事は「世界長寿地域宣言」を行い、記念碑を泡瀬の沖縄県総合運動公園に建立しました。また2004年には、米国の有名なニュース雑誌であるタイム誌の特集に「長生きしたいのなら、沖縄の生活スタイルに学べ」と取り上げられました。しかし、現実は表1のように、都道府県別平均寿命ランキングで1980年代は男女とも1位だったものが近年は急降下し、直近2020年の国勢調査では男性が43位、女性も16位に順位を下げました。特に男性は最下位になる勢いです。さらに悪い情報として、35〜64歳の早世率(65歳未満で亡くなる率)が男女ともに全国ワーストで、今後さらに順位を落とすことが確実視されています。残念ながら長寿県沖縄は完全に過去のものとなったのです。

表1 沖縄県の平均寿命の推移

出典:厚生労働省ホームページ 令和2年都道府県別生命表の概況表2 平均寿命の年次推移(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk20/index.html) をもとにグラフに編集

がんの統計で大腸がんが1位に

国立研究開発法人国立がん研究センターから発表された「最新がん統計のまとめ」によると、2019年に新たに診断されたがんは約99万人(男性56万人、女性43万人)、2021年にがんで死亡した人は約38万人(男性22万人、女性16万人)でした。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%(2人に1人以上)女性51.2%(2人に1人)でした。また、がんで死亡する確率は男性26.2%(4人に1人)女性17.7%(6人に1人)となっています。つまり、日本人の半分以上が一生の間にがんに罹患するのです。ちなみに2019年のがん罹患数では大腸がんが男女ともに2位で男女合わせると1位です(表2)。2位以降は、胃がん、肺がん、前立腺がん、乳がんと続いており、特に近年は大腸がんの急増が著明です。(図1)

表2 がん罹患数の順位(2019年)

1位2位3位4位5位
総数大腸乳房前立腺大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸6位
男性前立腺大腸肝臓大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸5位
女性乳房大腸子宮大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸7位
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

図1 大腸がん罹患数と死亡数の推移

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)、(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))

「がん」はなぜできるのか?

では、なぜがんができるのでしょうか。がんは遺伝子に突然変異という異常が起こることで発生します。通常は一つの遺伝子異常で起こることは少なく、複数の遺伝子異常が重なることで発生すると考えられています。遺伝子異常の原因は加齢や両親から受け継いだ遺伝的要因だけでなく、喫煙やウイルス感染、飲酒、食生活などの環境要因があります。加齢や遺伝的要因は自分ではどうすることもできないので環境要因がより重要となってきます。

大腸がんの原因と予防

大腸がんの原因は、複数の危険因子が考えられていますが、特に重要な危険因子は飲酒や加工肉や赤身肉(牛肉、豚肉など)の過剰摂取です。加工肉の代表は沖縄県民が大好きなポークランチョンミートです。ファストフードも避けるべきで、人気の某フライドチキンは沖縄県が全国一の消費量となっています。肥満や運動不足も原因となります。肥満は高血圧や糖尿病、心臓病、脳卒中などの生活習慣病の原因となることはよく知られていますが、種々のがんの危険因子とされています。例えば、子宮がんや乳がん、胆嚢がんや膵がんなどです。肥満によって蓄積された内臓脂肪からがんを誘発する物質が産生される為に大腸がんになると考えられています。戦後早くから米軍駐留による食の欧米化が進み、肥満や生活習慣病が増加することで沖縄県の大腸がんの治療成績も下位に低迷しています。(表3)また、昨今のコロナ禍で行動制限や外出規制が影響し、肥満の人が増加しているとのデータもあり、気になるところです。逆に大腸がんの予防となるのが食物繊維を摂取することや運動習慣などです。10年くらい前には県民こぞって体重を「1キロ減らす!」をキャッチフレーズにマスコミがこぞってキャンペーンをしていたのが今こそ再開して欲しいところです。

表3 大腸がん治療成績都道府県別ランキング

200820092010201120122013201420152016
男性464547474743464646
女性121112132646474119
全体434544464646464646
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(人口動態統計)

早期発見プロジェクトで二次予防

病気の予防には、そもそも病気にならないようにする1次予防と早期発見で完治させる2次予防があります。先ほど述べたようにいくら生活習慣を気をつけても、日本人の半分以上はがんになることを考えると、2次予防で早期発見に努め、治療で治すことがもっと大切だと考えるのです。本文のタイトルが「大腸がんにならないために」ではなく「大腸がんで死なないために」としたのは、大腸がんになったとしても早期発見で完治させることが大事だからです。当院では2017年から「大腸がん早期発見プロジェクト」(図2)を開始し、入院患者様に無料で便潜血検査を行い、多数の早期大腸がんや大腸腺腫(前癌病変)を発見し、治療に結びつけています。

図2 大腸がん早期発見プロジェクト

大腸がんの症状、検査、治療

大腸がんは腹痛や血便などが自覚症状としてありますが、このような症状はかなり進行した状態であることが多いです。ですので無症状で発見することが重要で、そのために検診や人間ドックがあるのです。検診や人間ドックでは便潜血で判定します。精密検査は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で行い、がんが疑わしいところの組織を採取して病理検査で判定します。それで大腸がんと診断されたら、CT検査で進行度(ステージ)を判定します。大まかにいって、ステージ0は大腸内視鏡で切除となります。ステージ1から3は外科手術となります。ステージ4は一部が手術で大部分は薬物療法(いわゆる抗がん剤治療)となります。ステージ別の5年生存率を図3に示しますが、ステージが進むほどに5年生存率が低下し、ステージ4では20%以下となります。表にはありませんが、ステージ0はほぼ100%治ります。

図3 大腸がんの5年生存率

出典:国立がん研究センター がん対策情報センター「がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2010-2011 年5 年生存率集計 報告書」

進歩する外科手術と薬物療法

外科手術は腹腔鏡手術(図4)といって、小さい傷で細い手術器具をお腹の中に入れて、モニターを見ながら病気の部分を切除する手術法が主流になりつつあります。一部の施設では「ロボット支援手術」も導入されています。このような低侵襲手術(傷が小さく、体への負担が少ない手術)がこれからさらに進歩していくことでしょう。

図4 腹腔鏡手術のイメージ


薬物療法の目的は大きく2つに分けられ、一つは再発予防でもう一つは延命目的です。特に延命目的の薬物療法はこの10数年で大きく進歩し、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入とがんの遺伝子診断に基づく適切な薬剤の投与で生存期間の著明な改善が認められています。

まとめ

「大腸がんにならない」ためには、太らないこと、アルコールや赤身肉・加工肉の摂取を減らすこと、食物繊維の摂取を増やすこと、運動習慣をつけることです。もっと大事なことは「大腸がんで死なない」ために、検診を受けて早期発見・早期治療に努めることです。最後までお読みいただきありがとうございます。本文が沖縄県の大腸がん治療成績の向上と、長寿県復活に少しでも貢献できれば嬉しく思います。

著者 -Author-

ハートライフ病院 外科部長

宮平 工(みやひら たくみ)

【プロフィール】
広島大学医学部を卒業後、琉球大学医学部附属病院で初期臨床研修を修了。その後、ハートライフ病院や沖縄協同病院、国立長崎中央病院や浦添総合病院、国立療養所沖縄病院で臨床経験を積み、平成17年にハートライフ病院に入職。平成26年には外科部長に就任し現在に至る。胃がんや大腸がんに対する手術治療や抗がん剤治療、各種消化器疾患に対する腹腔鏡手術を得意としている。
【学会認定および所属学会】
日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本内視鏡外科学会評議員、日本消化器病学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医

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