認知症について

認知症について

増え続ける認知症

高齢化社会を反映してか、最近の新聞・ニュースでは認知症の話題に事欠きません。本邦では、認知症の方はすでに500万人を超え、その予備軍である軽度認知障害(認知機能はやや低下しているが日常生活機能に影響を与えるほどではない)の方は450万人と言われ、併せると65歳以上人口の3割くらいになり、その多さに驚かされます。
団塊の世代の高齢化にともない、認知症の方は2025年には約700万人を超えると厚生労働省から報告されており、さらに人口減少を視野に入れると2040年には国民の10人に1人が認知症という試算もあり、医療や福祉だけではなく社会構造が急速に変わっていくことが予想されます。
今でこそ認知症という疾患名が一般化していますが、私が医師になった20数年前は痴呆症とか耄碌(もうろく)と呼ばれ、うっかり失敗したときには「棺桶に片足を突っ込んでいる」と嘆く人もいました。当時は脳の病気という認識は薄く、老化による衰えのひとつで高齢になれば避けられないという考え方が主流だったと思います。
しばらくして認知症治療薬が発売され、インターネットの普及と重なったこともあり認知症のタイプ別診断、治療薬の使い方、上手な対応の仕方などさまざまな情報が広まりました。画像診断学は向上し、保険がきかないものも多いのですが、核医学検査やバイオマーカーなどの色々な検査もどんどん発展しています。

日本における認知症の人の将来推計

認知症発症の防御因子と危険因子

認知症発症の防御因子・危険因子の研究も進められ、生活習慣の統計なども明らかになっています。その中でも精度が高いといわれる、2010年にアメリカで発表された結果を紹介します。有名な研究で、学会や研究会でときどき引用されています。注目すべきは、危険性を低下させるのは運動と知的活動だけで、栄養面と医薬品はどれも否定されていることです。これは、何かを食べれば(サプリメント含む)もしくは何かの薬をのんでいれば認知症になりくいということはないと解釈できます。
ただ、今年に入ってから認知症と腸内細菌との関連が提唱されましたので、今後は予防薬や予防食などが開発されるかもしれません。

認知症の危険因子ランキング

下記は認知症の危険因子ランキングです。
①頭部外傷の既往
②中年期の肥満や高血圧
③喫煙
④糖尿病
⑤うつ病
⑥不眠症
⑦中年期からの難聴

①以外は、普段から健康管理を心がけたり、治療を受けておきましょう。なお、炭水化物(糖質)制限は寿命を延ばすという研究結果と、縮めるという研究結果の両方があります。肥満による生活習慣病の増加の問題もありますが、反対に高齢者では、低栄養のため抵抗力が落ちて感染症にかかりやすく重症化することも多くみられます。そのため、「中年を過ぎたら介護されやすい体型づくり」をお勧めすることがあります。太りすぎると介護者の負担が大きくなり、痩せすぎると褥瘡(床ずれ)ができやすくなるため、バランスのよい食事を心がけ、適正な体重にしていきましょう。
最近は「終活」という言葉を耳にするようになりました。一般的には、財産整理や遺言書作成、葬式をどうやるかなどの社会的な問題が多いのですが、介護されやすさについても考えてみましょう。小さなことでもありがとうと、感謝を言葉で伝えることも大切ですね。

認知症の治療について

ひとことで認知症といっても、軽度や中等度でとどまらず次第に進行し高度、重度になっていきます。そして重症度に応じて治療の方向性が変わります。
まず、在宅タイプ。介護サービスを利用しながら自宅で生活ができている段階です。治療方針は在宅での生活を継続することになります。
次に、施設入所タイプ。専門教育を受けた介護スタッフが24時間体制で対応します。高齢だと身体機能が落ちている方も多く、移動や日常生活を支えてくれます。この場合での治療方針も、現状の生活を維持することになります。いずれも暴言や暴力はもちろん、不眠への対応なども必要となることがあります。
3番目に精神科認知症病棟入院タイプ。幻聴や妄想などの精神症状が強い場合には、介護対応では限界があり医療介入が必要になります。食事を拒否する理由が、うつ病だったり、毒を入れられているという妄想の場合には、速やかに薬物治療を始めないと長引いて衰弱してしまいます。

高齢者の自動車の運転について

最後に認知症の人の自動車運転についてです。ご存じの方も多いと思いますが、道路交通法改正以降は、認知症と診断されれば運転免許が更新できません。さらに、免許証更新時に70歳以上で高齢者講習が、75歳以上では認知機能検査が義務付けられました。
近年の高齢者の交通事故の増加は社会的に問題になっていることから、認知症でなくても自主返納する方が増えています。地域や家庭により違いはあると思いますが、運転中止後の生活の質が保証されれば自主返納が促進され、痛ましい事故による死傷者は減ると予想されますので、公共交通機関の充実などの行政の対応が望まれます。

著者 -Author-

ハートライフ病院 心療内科 心療内科部長
菅野 善一郎

プロフィール

山形県出身・北里大学医学部卒業。北里大学病院、宗仁会武蔵野病院、国保旭中央病院、琉球大学医学部附属病院を経て、2009年よりハートライフ病院に心療内科医として勤務。2019年4月より心療内科副部長に就任。
<専門分野>
リエゾン精神医学・心身医療
<学会認定>
精神保健指定医・日本精神神経学会専門医・日本精神神経学会指導医

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