歩きたくないのは老化のせい?腰部脊柱管狭窄症
- 2024.08.19
- ASUNARO No.118
- 特集
腰部脊柱管狭窄症とは?高齢者に身近な疾患
腰部脊柱管狭窄症をご存じでしょうか。
椎間板ヘルニアは多くの方が経験することからよく知られていますが、脊柱管狭窄症は意外にもあまり知られていません。ヘルニアとの違いは、ヘルニアは自然に治ることも多いのに対して、この病気は自然治癒があまり期待できないことです。従って、脊椎手術の半数以上がこの病気に対して行われています。
日本には約240万人の腰部脊柱管狭窄症の患者がいて、40歳以上の有病率は3.3%と推定されています。特に高齢者にとっては身近な病気といえるでしょう。
腰部脊柱管狭窄症の症状 下半身の痛みやしびれに要注意
症状は殿部から脚にかけてのしびれと痛みで、多くが両側にあらわれます。歩き始めは何ともありませんが、そのうちに痛みが生じ、次第に強くなってきます。座ったり、立ち止まって背中を丸めたりすると痛みは和らぎます。そうなると、長く歩き続けることが出来なくなるため、休み休みしながら歩く(間歇性跛行)ようになります(図1)。
他にも、足の感覚に異常が生じ、スリッパが脱げてもわかりづらくなったり、「足底に紙が貼り付いているような鈍さ」や「砂がついているような違和感」を感じたりするようになります。さらに放置していると、肛門や会陰部あたりがしびれて、排尿と排便の障害も出てきます。歩行時に尿意や便意を感じ、失禁することもあります。
腰の病気ではありますが、主たる症状は殿部を含めた下半身に現れ、腰痛はほとんどないこともあります。腰痛と言えば、昨今は高齢者の「いつのまにか脊椎骨折」によるものが増えています。脊椎骨折は脚の症状を伴うことはほとんどありませんが、しばらくしてから脊柱管狭窄を生じさせることもありますので、注意が必要です。
脊柱管狭窄症の原因とリスク要因 加齢と腰への負担が影響
脊椎神経の通り道(脊柱管)が狭くなって、神経が圧迫されることが原因です。背筋を伸ばすと脊柱管が狭くなり曲げると広がります。背骨の加齢に伴う変性が関連しており、中腰作業や重量物の運搬などで腰への負担が多い人に発生しやすいとも言われています。男女差はなく、遺伝性もありません。
脊柱管狭窄症の診断方法 診察とMRIで神経圧迫を確認
診断には診察とMRI検査が必要です。本人は自覚していなくても、足首や足のゆびの力が落ちていることがあります。かかと歩きと爪先歩きが出来るかどうかで、筋力が低下しているかをみることもできます。ちなみにこの病気は神経系の疾患であり、血流の障害ではありませんので、脚の冷感とか浮腫とかは直接的には関係ありません。また、股関節や膝関節の痛みとも区別する必要があります。
脊柱管狭窄症患者のMRIでは、脊柱管が狭くなって神経が圧迫されているのが確認できます(図2)。肥厚した靭帯(すじ)、膨隆した椎間板、骨棘、すべり症(骨のずれ)などが狭窄を生じさせています。神経圧迫の部位は多くは一カ所ですが、複数箇所に見られることもあります。
腰部脊柱管狭窄症の治療と手術選択 悪化を防ぐための早期対応が重要
軽症のうちは薬などの治療を行います。しかし、この病気は加齢とともに悪化してくることが多いので、タイミングをみて手術を勧めることがあります。長く放置して神経が変性してしまうと、神経の機能が回復しづらくなるため、手術をしてもあまりよくなりません。
手術は脊柱管を拡げる1時間程度のものと、すべり症を矯正固定する3時間程度のものがあり、画像などから術式を決めます。2週間程度の入院が必要で、退院後はコルセットを1〜3カ月間は装着してもらいます。その後は生活への制限は特になく、スポーツへの復帰も可能です。もともと元気な方であれば手術に年齢制限はありません。
腰部脊柱管狭窄症がもたらす心身への影響と早期治療の重要性
この病気を患うと外出が億劫になり、自宅にこもりがちになります。そのような生活が続くと、やがて心の健康にまで悪い影響を及ぼすと言われています。すなわち憂鬱な気分になり、活気が失われてしまいます。患者さんには「こんな辛さが続くならば、長生きもしたくない」と述べる方までいます。皆さまが思い描いている生き生きとした老後の生活を送るためにも、どうにかして克服しなくてはいけない病気と言えるでしょう。
おわりに
歩きたくないのは老化のせいだけではなく、腰部脊柱管狭窄症が関わっているかもしれません。腰部脊柱管狭窄症は時期を逸さず治療すれば治る病気です。思い当たる症状がある方は、お近くの専門医にご相談下さい。
著者 -Author-
ハートライフ病院 整形外科
屋良 哲也(やら てつや)
【プロフィール】
1986年に島根医科大学卒業後、琉球大学病院整形外科へ入局。その後、大浜第一病院、琉球大学病院、那覇市立病院などで脊椎手術を執刀。2024年4月からハートライフ病院に勤務。
【学会認定および所属学会】
日本整形外科学会専門医、脊椎脊髄外科専門医、日本脊椎脊髄病学会認定指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄医
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