末梢動脈疾患 PAD:Peripheral Arterial Disease

末梢動脈疾患 PAD:Peripheral Arterial Disease

みなさんは末梢動脈疾患(以下PAD:Peripheral Arterial Disease)という病気を聞いたことがありますか?『知らない』と答える人がほとんどではないでしょうか。では心筋梗塞や脳梗塞という病気はどうでしょうか?ほとんどの人が『知っている!』と答えるでしょう。しかし、実はこれらはすべて動脈硬化が原因の同じ病気なのです。PADは誰にでも起こり得る病気であり、高齢化や食生活の欧米化に伴いPADの患者数は増加傾向で約350万人以上と報告されています。今回はPADについて解説致します。

PAD(末梢動脈疾患)とは

以前は閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis-Obliterans)と呼ばれていましたが最近ではPADという呼び方が一般的です。PADは主に手足の血管に動脈硬化が起こり、血管が細くなり、足に十分な血液が流れなくなることで発症する病気です。歩行時の足のしびれ、痛み、冷感などの症状が出現します。病気が進行すると休み休みながらでないと歩けない(間欠性跛行)、安静時の痛み、更に悪化すると、足に潰瘍が出来たり、壊死したりすることもあり、ひどい場合は切断することもあります。またPADが存在する場合、他の部位の動脈でも動脈硬化が進行していることが多く、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳梗塞を発症するリスクが高いと言われています。
PADの死亡率は高く、重症では5年間で半分くらいの方が亡くなります。死亡原因の75%は心筋梗塞や脳梗塞などの脳心血管死と報告されています。

PADの原因

PADは誰にでも起こりうる病気です。日本人の65歳以上の3.4%がPADを発症していると言われています。リスク因子として60歳以上、喫煙、糖尿病、メタボリックシンドローム、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患、脳血管障害、透析などがあります。喫煙者は非喫煙者に比べて発症率が4倍高くなり、また糖尿病も発症率が4倍高くなります。日本の65歳以上の糖尿病患者では12.7%の人がPADに罹患していると言われています。糖尿病では重症化しやすく下肢切断を余儀なくされる割合が7倍高くなると言われています。

PADの症状

症状は大きく4つの段階(Fontaine分類)に分けられます。
数字が大きくなると症状も悪くなります。FontaineⅢ、Ⅳ度で血行再建術が必要な病態を重症下肢虚血と呼び、1年後に30%の人が下肢切断、25%の人が亡くなると言われています。
FontaineⅡ度が70~80%を占め、多くは予後良好と言われています。5年後で70~80%は不変、跛行悪化が25%と言われています。車社会で歩く習慣がない人は跛行症状がなく、最初からFontaineⅣ度で発症される場合が多く、普段からウォーキングなどの習慣を持つことが早期発見のために重要と思われます。

PADの検査

まずは触診です。患者さんご自身でもできる方法です。
足の脈を触知できる部位は鼠径部、膝の裏、足の甲、うちくるぶしです。左右差がある場合や、触知できないなどの症状があればかかりつけ医と相談してください。
次にABI検査(足関節部最高血圧/上腕動脈最高血圧)です。この検査は簡単に行ことができ、苦痛はありません。健康な人は足と腕の血圧はほぼ同じですが、下肢の動脈に狭窄や閉塞があると足の血圧が下がります。ABIが0.9以下だとPADが疑われます。これで末梢動脈疾患の疑いがある場合は血管エコー、下肢動脈造影3D CT-Angio、下肢動脈MRI、カテーテル検査などで評価を行います。

PADの治療

PADの治療には何よりも生活習慣の改善が重要です。喫煙をしている人はすぐに禁煙をして、高血圧や脂質異常症、糖尿病のある場合は血圧・コレステロール値・血糖値のコントロールをしっかり行います。 
次に薬物療法と運動療法、血行再建術について解説します。
薬物療法:症状が軽症から重症のすべての段階で使用されます。代表的なものとして血液をサラサラにする抗血小板薬(バイアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど)。全身の動脈硬化予防が必要なため糖尿病や脂質異常症がある場合は、そのコントロールも行います。
運動療法:医師や理学療法士の指導の下で1日30分以上の歩行訓練を週3回、3ヶ月以上続けると有効であると報告されています。歩行訓練を続けることで細い血管が発達し、足への血流が増加し症状の緩和につながります。
血行再建術:皮膚に潰瘍や壊死がある場合や薬物や運動療法で症状が改善しない場合、狭窄や閉塞によって問題のある血流を再開させる血行再建術を行います。血行再建術にはEVT(EndoVascular Treatment:カテーテルによる血行再建術で以前はPTAと呼ばれていました)とバイパス術があります。
EVTは狭窄や閉塞した血管にカテーテルを通じて風船を膨らませ血管を拡げて、再狭窄予防の薬剤溶出性バルーンを塗布したり薬剤溶出性ステントなどを留置したりします。EVTは体の負担が少なく治療方法の主流となっています。
バイパス術は詰まった動脈を迂回して、自分の血管や人工血管をその先につなぎ、血液が流れるようにします。

最後に

最後まで読んでいただきありがとうございます。少しでもPADについてご理解いただければ幸いです。PADは全身の動脈硬化の疾患です。放置すれば下肢切断のリスクが高くなります。下肢切断をするとADLが低下し認知症の進行や介護の負担が増加します。みなさんの大事なご家族が下肢切断を回避し、元気で長生きしていただけるようにお手伝い出来たら幸いです。

著者 -Author-

ハートライフ病院 循環器内科
仲村 義一

プロフィール

琉球大学医学部卒。中頭病院で初期臨床研修後、同病院で研鑽を積む。2016年にハートライフ病院に入職し、2019年10月に東京ベイ浦安・市川医療センターでEVTの研修を受ける。2021年4月にハートライフ病院循環器内科部長に就任。
【学会認定等】
日本内科学会認定総合内科専門医、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、
日本心血管インターベンション治療学会認定医、日本内科学会内科指導医、JMECCインストラクター、ICLSインストラクター、POCUSインストラクター