慢性腎臓病~腎臓の働きと慢性腎臓病~

慢性腎臓病~腎臓の働きと慢性腎臓病~

みなさんは自分の腎臓がどのくらい機能しているか知っていますか?腎臓の機能が障害された状態は決して稀ではなく、日本の成人8人に1人が慢性腎臓病といわれています。慢性腎臓病で腎臓内科外来に紹介される患者さんの多くが「これまで腎臓が悪いと言われたことはない」と驚かれます。これは腎臓について説明されることが少ないことが一因です。自分の腎臓の状態を把握し、腎臓を守ることは、健康な生活を送るためにとても重要です。今回は腎臓の働きと慢性腎臓病についてお話しします。

腎臓の働き

わたしたちは毎日食事から生命維持に必要なエネルギーを得ています。この過程でできる水分や老廃物を体外に排出する働きを腎臓が担っています。水分や老廃物は血液にのって腎臓に運ばれ、“糸球体”というふるい装置で濾過されます。1つの糸球体は0.1-0.2mmと非常に小さいものですが、左右の腎臓合わせて200万個もの糸球体が力を合わせて水と老廃物を濾過し、濾過されたものが最終的に尿として体外に排出されます。このように腎臓が水分と老廃物を排出することで、私たちの身体は一定の状態に保たれています。
腎臓は様々なホルモンを作る役割も担っています。体中に酸素を送る細胞である赤血球を作るよう指令を出すホルモン (エリスロポエチン) や、血圧を調整するホルモン (レニン) を産生しています。またビタミンDを活性化し骨を丈夫に保つ働きをもちます(図1参照)。

出典:NPO法人 腎臓サポート協会 webサイト

腎臓の機能とは

腎臓の機能は糸球体濾過量 (Glomerular Filtration Rate : GFR ) で表すのが一般的です。これは腎臓の主要な働きである水分と老廃物を濾過する機能を “1分間でどれくらい濾過できるのか” で表したものです。健康な腎臓は1分間に60ml以上の水分と老廃物を濾過しているので、GFR値は60以上となります。検診や病院での検査結果ではeGFRとして表示されているので、御自身の腎臓の機能を一度確認してみてください。

慢性腎臓病とは

腎臓の機能が数ヶ月から数年かけて徐々に失われていく病態が慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)です。糸球体での濾過量が低下した状態であるeGFR値60未満が3ヶ月以上続くとCKDと診断されます。糸球体での濾過量が低下せずeGFR値が60以上でも、蛋白尿や血尿が3ヶ月以上続く場合にCKDと診断されることがあります。これは蛋白尿や血尿の存在が糸球体の障害を示しているため、この状態が持続すると糸球体機能が失われ腎臓の機能が低下するからです。
 糸球体での濾過量が低下すると十分に水や老廃物を濾過し排出することできなくなります。水が濾過できなくなると足や全身にむくみが出現し、息切れといった心不全の症状が出現することもあります。老廃物が濾過できなくなると、尿毒症といわれる倦怠感、食欲低下の出現や、不整脈や血圧低下、意識障害など致命的になりうる症状が出現することもあります。

慢性腎臓病の原因

CKDを起こす原因は様々ありますが、生活習慣病に関連するものや腎臓自体に炎症が起こる慢性腎炎などが一般的です。CKDが進行し末期腎不全となり透析が必要となる原因の第1位が糖尿病による糖尿病性腎症、2位が高血圧による腎硬化症で、この2つで半数以上を占めています。3位が腎臓に炎症が起こる慢性糸球体腎炎です。

慢性腎臓病の予防

残念ながらCKDでは失った腎臓の機能が回復することはほとんどなく、多くの場合残された機能も徐々に障害されていきます。そのためCKDの重症度は、残された腎臓機能の割合でステージとして分類します(次ページ図2参照)。機能する腎臓が減少するとステージが上がり、eGFR値15未満のステージG5に至ると透析や腎移植が必要となります。
まずはCKDにならないために生活習慣病を予防することが重要です。先に述べた糖尿病や高血圧だけでなく、脂質異常症や肥満もCKDの原因となりうるため、定期的に検診を受け生活習慣病にならないよう注意しましょう。

出典:NPO法人 腎臓サポート協会 webサイト

慢性腎臓病と診断されてしまったら

CKDと診断された場合、残された腎臓の機能を少しでも温存することが重要です。腎臓を障害している原因の治療を行うことで、障害の進行を緩やかにすることができます。生活習慣病が原因であれば、その治療を十分に行うことが大切です。運動や適切なカロリー摂取、塩分制限、禁煙なども大切です。かかりつけの先生と相談しながら生活習慣を見直してください。慢性糸球体腎炎などの腎臓の疾患が原因であれば腎臓内科専門医のもとで十分な治療を行ってください。

最適な治療を選択する腎代替療法選択外来

CKDステージG3までは原因疾患の治療がCKDの治療になります。しかしステージG4まで進行した場合は、原因疾患の治療だけでなく、今後必要となることが予想される透析や腎移植といった腎代替療法について相談を始める必要があります。透析や腎移植といった治療は機能しなくなった腎臓の代わりを果たしてくれますが、生活に制約が生じます。例えば血液透析では週3回通院し毎回4時間の治療を受けるため、治療前と同じように時間を使うことができなくなり、働き方の変更を余儀なくされることもしばしばあります。そのため個々の患者さんのライフスタイル、ライフステージ、価値観に合わせた治療法を選択することが重要です。個々の患者さんが最適な治療を選択するには、腎代替療法に精通した医療者が治療法について十分に説明し、患者さんだけでなく生活を共にする家族も交えて相談を繰り返す必要があり、とても時間がかかります。そのためCKDがステージG4まで進行したら腎代替療法選択外来を受診してください。ステージG5になると具体的に透析や移植の準備を開始します。治療が必要となる時期を見極めながら準備をし、腎臓が十分に機能を果たせなくなったら治療を開始します。

障害されても自覚症状が出ない腎臓

障害されてもなかなか自覚症状が出ないのが腎臓です。GFR値15未満のステージG5になるまで症状が出てこないことも多々あります。ここまで進行する前に治療を開始することが大切なので、検診やかかりつけ医で定期的に尿検査や血液検査を受けましょう。
腎臓は静かにわたしたちの生活を支えてくれています。腎臓が障害されCKDが進行すると健康に生活を送ることが困難となります。またCKDは腎臓だけでなく心臓や血管も障害し心筋梗塞や脳梗塞といった命を脅かす病気も起こします。腎臓を大切にし、ひとりひとりが健康で豊な人生を送れることがわたしたち腎臓内科医の願いです。

著者 -Author-

ハートライフ病院 腎臓内科
普久原 智里

プロフィール

琉球大学医学部卒。琉球大学病院で研修後、聖マリアンナ医科大学病院で腎移植を中心に腎代替療法について研修。2021年4月にハートライフ病院に唯一の腎臓内科専門医として赴任。地域の人々の腎臓を守るため、地域病院と連携しながら診療にあたっています。個々の患者さんが希望する人生を送れるようサポートする医療を目指しています。
【学会認定等】
日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本内科学会内科認定医

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