食道がん ~お酒を飲むと顔が赤くなる人は 食道がんになりやすいでしょうか?~

食道がん ~お酒を飲むと顔が赤くなる人は 食道がんになりやすいでしょうか?~

はじめに

「食道がんは悪性度が高いので治療を受けても死んでしまう。」とか「食道がんになったら人生おしまいだ。」という声をよく耳にします。本当にそうでしょうか?現状を一緒に見ていきましょう。

食道がんの悪性度

図1は各臓器のがんの5年生存率(治療をして5年後に何%が生存しているか)です。前立腺がんや甲状腺がん、皮膚がんは100人中90人以上が治療後5年以上生存しており予後の良いがんです。前の県知事が亡くなった膵臓がんは最も予後が悪く100人中7人しか生存していません。食道がんは33%で5年後33人しか生存しておらず、予後の悪いがんの一つです。「食道がんは悪性度が高いがん」というのは事実です。

図1 出典:全国がん罹患モニタリング集計 2006-2008年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2016)独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

また、図2に示すように日本では肺がんや大腸がんの死亡率が年々増加していますが、食道がんの死亡率は横ばいです。

図2 出典: 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

次に、図3を見てみましょう。これは食道がんの専門家で構成している日本食道学会の食道がんの治療法別の5年生存率です。手術療法の5年生存率も年々向上してきていますが、48%とまだ満足すべき成績ではありません。しかし、577人に行われた内視鏡的切除術の5年生存率が84.5%と大変良好な治療成績をあげています。

図3 食道がん初回治療後の生存率(治療法別)

1年 2年 3年 4年 5年
手術療法(n=2282) 83.3% 66.1% 57.2% 52.2% 48.0%
内視鏡的切除術(n=577) 98.4% 94.9% 91.3% 87.8% 84.5%
化学放射療法(n=786) 57.6% 39.7% 32.3% 27.4% 25.7%
放射線療法単独(n=189) 47.1% 32.8% 27.0% 24.7% 22.0%
化学療法単独(n=78) 28.9% 12.2% 9.1% 6.1% 3.0%
緩和放射線療法(n=11) 42.9% 14.3% 14.3%

出典:日本食道学会

内視鏡的切除術とは一体どういう治療法でしょうか?これは日本で開発された治療法で内視鏡的に小さなメスを用いて食道の浅い層(粘膜下層まで)を切り取る方法で、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)と呼ばれ、現在世界中に広まりつつあります(図4)。体表に傷がつかないので痛みもほとんど無く、患者さんに優しい低侵襲の治療法です。ただし、誰でもこの治療法が受けられるわけではなく比較的早期の粘膜がんで発見された場合が適応になります。食道がんも粘膜がん(早期がん)で発見されたら根治できる時代になりました。

食道がんの特徴

図5は沖縄県のがん登録の状況です。乳がん、大腸がん、肺がんの患者さんが年々増加傾向にあります。食道がんの患者さんは毎年200人程度が登録されています。食道がんの患者数は女性に比べて男性が5~6倍多く性差があります。これは現在、食道がんの原因として認められている喫煙、多量飲酒が男性に多いことによると言われています。また、食道がんは50歳代から増加し、60歳~70歳代にピークがあるといえます。食道は狭い縦隔という胸の中にあるため、容易に隣接する気管や大動脈、肺、心臓に浸潤しやすい特徴があります。また、リンパ網が発達し、胸部食道がんでも胸部のみならず頚部、腹部に広範囲にリンパ節転移をきたします。リンパ節転移の頻度はがんの深さ(深達度)によって規定されています。図6はがんの深さとリンパ節転移の頻度を示しています。粘膜の浅い層までのがん(m1~m2)はリンパ節転移がありませんのでESDで根治できます。粘膜下層に深くはいる(sm2~sm3)とリンパ節転移の頻度が高くなり局所治療では根治できず手術が必要になります。中間のm3~sm1はリンパ節転移の頻度は10%程度ですから、まず先行してESDを行い切除標本の病理組織学的診断によって追加治療の有無を判断することになります。

図5 出典: 2016 年症例 沖縄県院内がん登録集計報告書

食道がんを早期に発見するためには?

それでは根治が期待できる早期食道がんとはどのようながんでしょうか?また食道がんを早期に発見するためにはどうすれば良いでしょうか?早期食道がんの人達の症状を調べてみると82%が無症状であったという報告があります。また、発見のきっかけでは95%が内視鏡検査で発見されています。食道がんのハイリスクグループとして①多量飲酒者、②お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人、③喫煙者、④50歳以上の男性、⑤食道アカラシアの患者、⑥バレット食道の患者といわれています。ハイリスクグループの方は年に1回、無症状でも内視鏡検査を受けることで早期がんで発見できる可能性が高くなります。

内視鏡検査の進歩

近年の内視鏡検査では通常観察に加えて、瞬時に光の波長を変えてNBIという観察ができるようになりました。NBIにすると血管がより鮮明に描出されるので、早期の食道がんが茶色の領域として認識できるようになりました。NBI併用の内視鏡検査を行うことで早期食道がんの発見が増加しています。

NBI併用内視鏡検査が有用だった1例

当院を受診した60歳代の男性を例にみてみましょう。無症状でしたが胃潰瘍の治療後、内視鏡検査を近くのクリニックで行ったところ早期の食道がんが発見され当院の食道外科外来に紹介されました。図7に示すように凹凸が無く軽度発赤で発見された早期がんでした。当院でNBI併用の内視鏡検査を行ったところ、新たに食道の別の部位に茶色の領域を示す食道がんを認めました(図8)。多発食道がんでした。共にESDを行いm2までの早期がんで根治となりました。また、術前に食道バリウム造影を行ったところ、2か所の病変がわかっているにもかかわらず、病変を描出することができませんでした。早期の食道がんはバリウム造影ではほとんど描出できません。

お酒を飲むと顔が赤くなる人は食道がんになりやすい

アルコールは肝臓で毒性の強いアセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは直ちにアセトアルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸(酢)へと分解されます。しかし、日本人の約45%はアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱い体質を持っています(図9)。飲酒で赤くなる人はアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱く、二日酔いや悪酔いの原因で食道がんの発生に関与している毒性の強いアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいのです。飲酒すると顔が赤くなるアセトアルデヒド脱水素酵素が欠損した人が、お酒を大量に飲むと食道がんの発がんリスクが数十倍に上がると言われています。

最後に

食道がんは悪性度の高いがんの一つですが、無症状の粘膜がん(早期がん)で発見できれば低侵襲の内視鏡治療で根治できます。ハイリスクグループの人は年1回、NBIを併用した内視鏡検査を受けましょう。バリウム造影検査では早期食道がんは診断できません。これまでハートライフ病院食道外科でも70人近い早期食道がんの方がESDを受けて根治し、現在も治療前と同じ快適な生活を送っています。

著者 -Author-

ハートライフ病院 食道外科 名誉院長
奥島 憲彦

プロフィール

1979年に熊本大学医学部を卒業後、東京女子医科大学消化器病センター外科、琉球大学医学部第一外科を経て、1994年にハートライフ病院へ入職。2007年4月にハートライフ病院の院長に就任。2019年4月より現職。
学会認定>
日本外科学会専門医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器外科学会専門医

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