大腸がんに対するロボット支援下手術

大腸がんに対するロボット支援下手術

はじめに

一生のうちにがんになる人はどのくらいいるかご存知でしょうか。最新の統計によると日本人のおおよそ2人に1人が何らかのがんにかかると言われています。その中で最も多いのは大腸がんで、年間約15万人の方が新たに診断されています。沖縄県では2020年の1年間で1,966人の患者さんが大腸がんと診断されました(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より)。人口10万人当たり134人という割合です。かなり多いと思われた方もおられるのではないでしょうか。

大腸がんとは

大腸は食べ物の通り道である消化管の一つで、1.5~2mほどの長さがあり、大きく結腸と直腸に分けられます。主な働きは水分を吸収して便を作ることです。大腸の内側は粘膜に覆われていて、その粘膜の細胞が悪性化して増えたものが大腸がんになります。早期の大腸がんは粘膜の中にとどまっているのですが、次第に大腸の壁の中に深く入り込んでいき、さらにリンパの流れに乗って大腸の周りのリンパ節に広がったり、血液の流れに乗ってほかの臓器(肝臓や肺など)に飛んで行ったりすることがあります。これらを「転移」と言います。

大腸がんの症状

最も代表的な症状は血便ですが、自覚症状がなく見つかる患者さんもたくさんおられます。
早期の大腸がんでは出血がないか、あってもわずかで、肉眼では見えないことも多いからです。そのため便潜血検査は早期発見のため非常に重要な検査と言えるでしょう。40代以上の方では定期的に便潜血検査を受けられることをお勧めします。また便に血がついたときは、痔があるからと言って放置せず、早めに病院を受診しましょう。
大腸がんが大きくなり便の通りが悪くなると、便秘や下痢、お腹の張り、残便感などの症状が出てきます。腸閉塞になって嘔吐や腹痛の症状で受診されることもあります。また貧血の症状(めまい、立ちくらみなど)や、がんがお腹のかたまり(腫瘤)として触れることで気づかれる場合もあります。

大腸がんの診断と治療

大腸内視鏡検査で大腸の中を直接観察し、組織の検査を行って診断します。大腸がんと診断されたら、病気の広がり(ステージ)を確認するために、エコーやCT、MRIなどのさらに詳しい検査を行います。早期の大腸がんは内視鏡治療で切除することができますが、進行すると内視鏡治療では取り切れず、手術が必要になってきます。また、ほかの臓器への転移がある場合などでは、抗がん剤による治療が組み合わせて行われます。

大腸がんに対する手術治療

大腸がんを治すのに最も効果的な治療は、がんを完全に切除することです。以前は手術といえば開腹手術が主流でしたが、2000年代からは腹腔鏡下手術が普及して広く一般的に行われるようになりました。腹腔鏡下手術はお腹の中を二酸化炭素で膨らませて、カメラで映した高精細画像を見ながら手術を行うものです。開腹手術に比べると高い技術が必要で手術時間は長くかかりますが、小さい傷でできるので痛みが少なく術後の回復が早いこと、出血が少ないことなどの利点があります。日本内視鏡外科学会のアンケート集計結果によると、2021年に行われた大腸がんに対する手術のうち、83.8%が腹腔鏡下手術で行われています。

手術支援ロボット ダビンチ

ダビンチは手術支援ロボットという名の通り、外科医が行う手術操作をサポートすることで、従来の腹腔鏡よりも精緻な手術を可能にすることを目的に開発された腹腔鏡下手術用の医療機器です。ロボットが勝手に動いて手術をするわけではありません。
当院に導入されたダビンチXiには次のような特徴があります。
・高精細3次元(3D)画像
・多関節機能鉗子
・手ぶれ防止機能
 通常の腹腔鏡下手術は先端が開閉する直線的な鉗子を使用して手術を行います。一方、ダビンチで使用する鉗子は人の手よりも多い関節がついていて、さらに手ぶれ防止機能も備わっているので、腹腔鏡下手術よりも繊細な手術操作が可能になります。術者は患者さんから離れたサージョンコンソールという操作台に向かって座り、高精細の3次元画像を見ながら手術操作を行います。患者さんにはペイシェントカートと呼ばれるロボットにつながったカメラや鉗子がお腹の中に入って、術者の操作に連動して動きます。
 ダビンチにも欠点はあります。一つ目は触覚がないということです。組織が引っ張られたり押されたりしている感覚がわからないので、技術的な習熟が求められます。二つ目は機械のトラブルが起こりえるということですが、非常に多くの安全機構やサポート体制が備わっているので実際に患者さんに影響が及ぶことはほとんどありません。

大腸がんに対するロボット支援下手術

日本でのダビンチを用いた手術は2012年に泌尿器科領域でスタートしました。その後、2018年から直腸がんに対して、2022年からは結腸がんに対してそれぞれ保険適応となりました。以後大腸がんに対するロボット支援下手術は全国的に普及し始めています。これまでのところ従来の腹腔鏡下手術と比較して、開腹手術へ移行する割合が低く、合併症の発生率も差がないと報告されています。

当院での現況と今後の展望

当院ではダビンチXiを導入したばかりですので、現時点では一部の患者さんに対象を限定して開始しております。今後、施設としての症例経験数が増えていくことで、多くの大腸がん患者さんにロボット支援下手術を受けていただけるようになっていくと思います。ただし、患者さんの病状によっては、開腹手術や従来の腹腔鏡下手術の方が望ましいと判断される場合もありますので、詳しくは担当医にご相談ください。

おわりに

ロボット支援下手術は大腸がんに対する低侵襲手術の新しい選択肢の一つです。患者さんが安心して安全な手術を受けていただけるよう、スタッフ一同さらに研鑽を積んでまいります。

著者 -Author-

ハートライフ病院外科 消化器外科副部長

加藤 滋(かとう しげる)

【プロフィール】
2002年に京都大学医学部を卒業後、北野病院、京都大学医学部附属病院での研修を経て、2004年より済生会泉尾病院で勤務。2008年からは京都大学大学院に進学し、医学博士を取得。
大学院卒業後は、京都大学医学部附属病院、天理よろづ相談所病院で腹腔鏡手術の研鑽を積む。2022年に京都市立病院へ異動し、2024年7月より現職。
【学会認定および所属学会】
日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、ダヴィンチロボットコンソール術者認定医、医学博士

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