食道アカラシアとPOEM手術

食道アカラシアとPOEM手術

嘔吐を繰り返す食道アカラシア

忘年会や新年会等で美味しいものを食べるのは人生の楽しみの一つです。美味しいものがスムーズに食べられなくなったら辛いと思いませんか?ある日、突然食事がつかえて胃に入らなくなり、毎日のように嘔吐するようになる病気があります。その日から家族との楽しい食事や友人との模合や飲み会も苦痛となります。発症は10万人に1人の頻度とも言われていますが、それが「食道アカラシア」という病気です。通常、食物を飲み込むと、①蠕動運動※1が生じ食物を食道の上部から下部まで運びます。そして、食道下部には圧の高い部分があり、胃から食道への逆流を防いでいます。②食物が蠕動運動で下部食道まで運搬されてくると自然にそれを感知して下部食道の圧が下がり、食物が胃にはいります。その後、再び下部食道の圧が上がり胃からの逆流を防止します。これらは迷走神経が自然に行ってくれるので、私たちは食べ物を飲み込むと意識しないでも、自然に食物が胃まで運ばれるようになっています。食道アカラシアは上記の①と②ができなくなって、食物が食道に停滞し、嘔吐を繰り返す病気です。

※1 蠕動運動(ぜんどううんどう)とは臓器の収縮運動のことで、飲み込んだ食物を移動させる役割がある。

食道アカラシアの原因

食道アカラシアの原因は、食道の運動を調節している迷走神経から食道壁の神経節細胞の変性など神経系の異常によると言われています。しかし、その原因は不明です。皆さん発症するまでは普通に食事をしており、当院で治療を受けた患者さんも発症時期は22歳~94歳と様々です。

食道アカラシアの診断の難しさ

食物が食道に貯留するようになると次第に食道が拡張してきます。さらに年数がたつと屈曲してS状型を呈してきます。その状態になると診断は比較的容易ですが、発症間もない時期は食道の拡張がないため、消化器内科の専門医が検査を行っても「異常なし」と診断されることが多いのです。内視鏡検査が行われますが、食道がんなど物理的に狭窄をきたす病変がないと医師も「異常なし」と診断してしまいます。極度のストレスが原因で嘔吐を繰り返している方もおりますし、太ることがイヤで食べても嘔吐を繰り返している病気の方もおられます。ですから、内視鏡検査で異常がなくて嘔吐を繰り返していると心因性の病気と判断され心療内科を紹介されている方も多いのです。医師にも食道アカラシアはかなり拡張した食道というイメージがあり、正常型アカラシアの存在が認知されておらず、食道アカラシアが鑑別疾患※2として頭に浮かばない医師が多いのが現状ではないでしょうか。当院で治療された17例は症状が出て、近医を受診し内視鏡検査などを行っていますが、10例が「異常なし」の診断あるいは別の病気と診断され治療されていました。診断は食道バリウム造影と食道内圧検査を行うと確定できます。

※2 疾患を特定するにあたり、可能性がある複数の疾患の事。

食道アカラシアの治療

大きく分けて、食道下部をバルーンで膨らませて減圧する方法と手術的に筋層を切開して減圧する方法があります。バルーン拡張術は若年者には効果がなく、穿孔(食道に穴があく)の危険性があるためハートライフ病院では手術を第一選択にしています。これまでの手術は腹部に4本の管を突き刺し腹腔鏡下に筋層切開をしていました。しかし、5年前より昭和大学江東豊洲病院外科 井上 晴洋 教授が開発した経口内視鏡的食道筋層切開術、POEM(Per-Oral Endoscopic Myotomy)が世界中で広まり当院でも導入してきました。これは、内視鏡観察下に食道の粘膜を切開し、そこから粘膜下層に径10mm大の内視鏡を挿入します。そして、筋層を露出しながら食道側10cm+胃側5cmの、長い粘膜下のトンネルを作製します。その後、食道から胃まで10数cmにわたり内側から筋層を切開します。最後に入口部の粘膜をクリップで閉じます。これまでの手術に比べ、体に傷がつかず患者さんに優しい低侵襲の手術です。ハートライフ病院ではこれまで食道アカラシア17人にPOEM手術を行い、嚥下困難※3が著明に改善し良好な治療成績を得ています。
POEMは高度先進医療で標準以上の技術と良好な治療成績が得られないと許可されません。
平成27年ハートライフ病院は技術的なハードルをクリアし厚生労働省より全国で7番目、沖縄県で初めてのPOEMの先進医療病院に認められました(昭和大学江東豊洲病院、昭和大学横浜北部病院、新潟大学病院、福岡大学病院、大分大学病院、長崎大学病院に次いで)。

※3 食物を飲み下す事が困難な状態。

誰でもかかる可能性のある食道アカラシア

あなたのそばにも食道アカラシアで苦しんでいる患者さんがいるかもしれません。また、他の病名で治療されているかもしれません。確率的には稀ですが、誰でも将来アカラシアになる可能性があります。原因は不明ですが治療法はすでに確立されています。食事がつかえるなどの嚥下困難が生じたら是非、食道外科にご相談下さい。

著者 -Author-

ハートライフ病院 食道外科 名誉院長
奥島 憲彦

プロフィール

1979年に熊本大学医学部を卒業後、東京女子医科大学消化器病センター外科、琉球大学医学部第一外科を経て、1994年にハートライフ病院へ入職。2007年4月にハートライフ病院の院長に就任。2019年4月より現職。
学会認定>
日本外科学会専門医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器外科学会専門医

かりゆし会の採用情報

かりゆし会では新しい仲間を募集しています

ハートライフ病院・ハートライフクリニック・ハートライフ地域包括ケアセンターを運営する社会医療法人かりゆし会の医師・看護師・薬剤師等の求人・転職・採用・リクリート情報を掲載しています。