大腸がんで死なないために ~予防と早期発見が大切~

大腸がんで死なないために ~予防と早期発見が大切~

過去のものとなった「長寿県沖縄」

「330ショック」という言葉をご存知でしょうか?国道330号線で大変なことがあったわけではありません。沖縄県の医療関係者ではよく知られた言葉です。昭和50年以降、5年毎に全国調査が行われ、都道府県男女別の平均寿命が公表されています。それによると、沖縄県の順位ではこれまで男性が10位以内に位置していたものが平成12年に26位に低下し、平成22年には30位となりました。女性もずっと1位を保ってきましたが平成22年にはついに3位に陥落してしました。この平成22年のデータの女性3位、男性30位の数字を合わせて、「330ショック」と表現したのです。長寿県沖縄という栄光は完全に過去のものとなっただけでなく、今後はさらに悪化するという予測もあります。

およそ5倍に増えた「大腸がん」

長寿を妨げる病気の代表格が「がん」です。がんは様々な臓器に発生しますが、そのがんの種類別の死亡率の推移が下の図です。男性では肺がんが1位で胃がんが2位、大腸がんが3位と続きます。女性では大腸がんが1位で肺がん、胃がんと続きます。大腸がんの患者は男女ともにどんどん増えてきていて、この30年間でおよそ5倍になっています。男性でも近い将来、罹患率(病気にかかる割合)は1位になると推測されています。

主な部位別がん死亡率の推移

がんになりやすくする因子と予防する因子

生活習慣と大腸がん-

今年の2月に新聞等で、沖縄県の大腸がんの死亡率がとても悪いと報じられました。47都道府県中、男性が下から2番目で女性は最下位という我々専門医にとっても大変ショックなデータでした。どうしてこんな状況に陥ってしまったのでしょうか。その答えを導き出すために大腸がんの原因について考えてみたいと思います。一般的な「がん」の発生には加齢(年をとること)、遺伝が深く関わっており、これは個々の力ではどうすることもできません。ただ、個々の生活習慣を改善することで予防することもある程度は可能です。大腸がんの危険を高める因子として、確実なものとしては赤身肉、加工肉、飲酒、肥満が挙げられており、逆に予防となる因子が身体活動(適度な運動)、食物繊維の摂取が挙げられています。車社会の沖縄では運動不足から肥満の増加※1、食生活はアメリカナイズされ、ファストフードや油物(あじくぅたぁー)が大好物。まさに「大腸がんになりますよ」という悪い環境に囲まれているのです。さらには大腸がんの検診の受診率が低いことで、早期発見も困難となっています。
検診で精密検査が必要となった場合は、大腸カメラをすることが多いのですが、過去に大腸カメラで辛い思いをしたことがある方には朗報があります。最近のCT検査の進歩で、大腸カメラの代わりに最新のCT検査で大腸腫瘍やポリープの有無が判断できるようになりました(当院でもできます)。

傷が小さく体に負担の少ない腹腔鏡手術

大腸がんは進行度が0期から4期まであり、早期である0期や1期では90%以上が治り、種々のがんの中で完治しやすいがんといえます。これが進行して4期になると20%以下しか治りません。すべての病気にいえることですが、早期発見がとても重要なのです。腹痛や腹部のしこり、便通異常、血便などが大腸がんの症状ですが、早期では無症状です。そのような症状が出る前に検診を受けて、早期発見することで完治の可能性が高まるだけでなく、0期で発見されれば、ほとんどの患者さんで大腸カメラで治療することが可能であり、おなかを切らずに治せます。仮に1期以上の大腸がんの場合でも、腹腔鏡手術で切除ができるようになりました。腹腔鏡手術は以前からある開腹手術と比べ、傷が小さく体に負担の少ない手術として急速に広まっています。ただし、最近の研究ではリンパ節転移の多い場合やひどい肥満の患者さんでは腹腔鏡手術は開腹手術より成績が悪いといわれており、手術が必要となった場合は担当の医師とよく相談してください。
前に述べたような健康的な生活習慣を守っていても大腸がんになる人はいます。それでも早期に発見すれば治る可能性が高くなるのです。タイトルを「がんにならないために」ではなく「死なないために」としたのは予防はもちろん大事ですが、それ以上に検診を受けて早期発見で治すことがもっと大事だと考えたからです。

開腹手術と腹腔鏡手術の傷の比較

進歩を遂げる化学療法(抗がん剤治療)

ここ数年、病院を受診した時点で4期と診断され、完治が困難な患者さんが増えています。たとえ4期と診断され手術ができない場合でも、近年の化学療法(抗がん剤治療)の進歩は目覚ましいものがあります。私が医師になった20数年前は手術ができない4期の大腸がんの寿命は8ヶ月程度でした。それが新しい抗がん剤治療では分子標的薬という特殊な薬剤を組み合わせることで最近では30ヶ月まで寿命が延びてきています。

手術ができない4期の大腸がん患者に対する抗がん剤治療の生存期間

早期発見と早期治療を

医療は日進月歩で進化しており、診断のための検査をはじめ、大腸カメラによる治療、腹腔鏡による体に負担の少ない手術、抗がん剤治療とこの20年の間に隔世の感があります。
私の伝えたいことを繰り返します。食事や運動を含めた生活習慣の改善によって肥満になる事を防ぎ大腸がんを予防をしましょう。もっと強調したいのは早期発見することで大腸がんになったとしても早期治療で治してしまいましょう。沖縄県民みんなで長寿県を取り戻そうではありませんか。

著者 -Author-

ハートライフ病院 外科 外科部長
宮平 工

プロフィール

広島大学医学部を卒業後、琉球大学医学部附属病院で初期臨床研修を修了。その後、ハートライフ病院や沖縄協同病院、国立長崎中央病院や浦添総合病院、国立療養所沖縄病院で臨床経験を積み、平成17年にハートライフ病院に入職。平成26年には外科部長に就任し現在に至る。
胃がんや大腸がんに対する手術治療や抗がん剤治療、各種消化器疾患に対する腹腔鏡手術を得意としている。
<学会認定>
日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本内視鏡外科学会評議員、日本消化器病学会指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医など

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