鼠径ヘルニア(脱腸)について~子どもだけじゃない。成人も要注意~

鼠径ヘルニア(脱腸)について~子どもだけじゃない。成人も要注意~

鼠径ヘルニアとは

鼠径ヘルニアとは鼠径部(足の付け根)から内臓、多くの場合は小腸(女性では卵巣や卵管)が飛び出し膨れた状態になる病気です。子どもに多く見られますが、40歳以上の男性の鼠径ヘルニアも少なくありません。男性だけでなく女性にも起こる病気です。また、鼠径ヘルニアには次の様な種類があります。

①外鼠径ヘルニア(間接型鼠径ヘルニア)

乳幼児と成人に発症するヘルニアの多くが、外鼠径ヘルニアです。原因は、胎児期にあった腹膜鞘状突起(腹膜の出っ張った袋)が、生後も閉じずに残った場合に発症します。腹膜鞘状突起(ヘルニア嚢)は睾丸の血管や精管といっしょに内鼠径輪と呼ばれるお腹の部位から陰嚢に向って降りてきますが、成人の場合は内鼠径輪が広がり、子どものころから残っていた腹膜鞘状突起が徐々に大きな袋になって小腸が脱出してくるようになります。小腸が入りこんで、少しづつ大きくなりヘルニアの入り口で締め付けられると、腸管は腹腔内にもどらなくなり循環障害をきたして壊死に陥り、腸閉塞の状態になります。これを嵌頓といいますが、生命を脅かす危険があり緊急手術が必要な場合も少なくありません。

②内鼠径ヘルニア(直接型鼠径ヘルニア)

加齢とともに腹壁の筋肉や組織が脆弱化(薄く弱くなること)してくると、内鼠径輪より内側のヘッセルバッハ三角とよばれる部位から腸が押し出され飛び出してくるタイプのヘルニアです。60歳以降の男性に多くみられるのが特徴です。

③大腿ヘルニア

女性に多くみられるヘルニアで、とくに多産の高齢女性に多いのが特徴です。足へむかう大腿血管の内側から腸管がはみ出し、鼠径部のやや下の太ももの内側が膨らんできます。最も嵌頓をおこしやすいヘルニアです。同部位に激しい痛みを伴いやや硬いしこりをふれた場合は放置せずに緊急の治療が必要になります。

ヘルニアの種類

小児では20~40人に1人が発症

こどもの右外鼠径ヘルニア

小児では、大きなヘルニアから気がつかないような小さな鼠径ヘルニアまでその発症頻度は3.5~5%といわれています1)。したがって乳幼児のおよそ20~40 人に1人がヘルニアに罹患している可能性があります。また片方のヘルニアの手術をした後に反対側のヘルニアが出てくることも少なくありません。乳幼児検診は必ず受けてよく診てもらうように心がけましょう。

子どもだけじゃない。成人も要注意

成人のヘルニア発症頻度は、45歳以上では0.7%、60歳以上では3~4%と推定されています2)。立った時や重たい荷物を持っておなかに力を入れた時などに、鼠径部が“ぷっくり”と膨らんでくると鼠径ヘルニアの可能性があります。最初はピンポン玉くらいだったものが、経過ともに大きくなり、こぶし大の大きさになることもあります。飛び出しているときに“違和感”や“軽い痛み・重い感じ”を感じる場合もありますが、手で押さえたり、横になると引っ込んでしまうのが特徴です。
日本では年間10万人以上、米国では約60万人が手術を受けています3)。高齢になるほど手術のリスクは高くなります。ヘルニアと診断されたら日常生活のQOL(Quality of Life)を維持するためにもできるだけ早い時期に治療を受けることが大切です。

自然治癒しない鼠径ヘルニア

未熟児でヘルニアが小さい場合は自然に治癒するケースがまれにみられますが4,5)、1歳未満のヘルニアでは嵌頓の起こる頻度が12~17%と高く、自然に治癒することを期待するのは適切な判断ではありません。診断され次第、早期に手術を行うことが原則です。乳幼児や年長児、そして成人のヘルニアでは自然治癒は期待できず、治療方法は手術以外にありません。従来、小児では鼠径部を2~3cm切開し、鼠径管内のヘルニア嚢を血管や精管から剥離して腹腔に近い部位で結紮する方法が行われていました。最近の手術では、腹腔鏡下で行うLPEC法(嵩原法)が広く普及しつつあり、日本の小児外科専門病院の半数以上で行われています。

負担の少ない手術LPEC法(嵩原法)6),7)

LPEC法は、おへそから4mmの腹腔鏡をお腹にいれ、注意深く観察しながらLPEC針という特殊な針でヘルニアの入り口だけを閉鎖する方法です。したがって鼠径管の中は剥離しないので、血管や精管を傷つける心配がありません。また手術創は、おへその中の5mmの創と2mmの鉗子と1mmのLPEC針の刺した創だけで、痕がほとんど残らず術後の痛みも少なくて済みます。手術したお子さんのほとんどは元気に歩いて翌日の午前中に退院します。また、LPEC法では片方のヘルニアを手術する際に反対側のヘルニアの有無を腹腔鏡で確認することができますので1度の手術で両方の治療をすることも可能です。

LPEC法(嵩原法)

再発率は約0.5%

再発率は約0.5%で、従来の方法と比べて遜色はありません。LPEC法は痛みも少なく傷痕も残りにくい、お子さんのからだにやさしい低侵襲性の手術法といえます。
成人では、鼠径部を約5cm程切開し、鼠径管を開いて精管と血管からヘルニア嚢を剥離したのち、周囲の組織を剥してそのスペースに人工素材のメッシュやプラグで補強する手術が広く行われています。腹壁の筋肉や組織の脆弱化が予想される50歳代以上の方には適切な治療法だと思われます。しかし、小児と同じヘルニアの起こり方をする比較的若い成人には、人工素材を使用することの弊害を無視できない問題点が指摘されています。
最近は20~30歳代の成人にLPEC法を行う施設も増えつつあり、とくに妊娠を予定されている若い女性にはLPEC法を第1選択として治療する施設が全国的に増えてきています。

早期の社会生活復帰も可能

ハートライフ病院のヘルニア外科では、小児はもちろん若い成人の方にもLPEC法による治療を行っています。また50歳以上の方にも、腹腔鏡下に人工素材を使用する低侵襲性の手術(TAPP)を積極的に行っています。LPEC法(嵩原法)やTAPP法は、お腹に傷を残さない手術法なので、術後の痛みは少なく回復もすこぶる順調です。原則として手術の翌日に退院していただくように1泊2日、あるいは2泊3日の入院としています。多少の個人差はありますが、早期の社会生活復帰は十分に可能です。

解説-author-

嵩原 裕夫

ハートライフ病院ヘルニアセンター

ヘルニアセンター長

プロフィール

1971年に徳島大学医学部を卒業後、77年には学位授与 (未熟児における直腸肛門機能の生理的発育について)、79年より徳島大学第一外科に所属し小児外科・小児内視鏡外科科長を経て、2011年より医療法人 樫水会 玉真病院附属「鼠径ヘルニア治療研究所」の所長に就任。現在はハートライフ病院で診療を行っています。
<学会認定>
日本小児外科学会専門医・日本小児外科学会指導医・日本外科学会専門医・日本外科学会指導医・日本内視鏡外科学会技術認定医

Profile Picture

参考文献

1)Grosfeld JL. Current concepts in inguinal hernia in infants and children.World J Surg 1989;13: 506-515
2)Glick PL, Boulanger SC :Inguinal hernia and hydrocele. In Grosfeld JL, O’Neil JA Jr, Fonkalsrud EW, et al (eds): Pediatric Surgery, 6th ed, Mosby, Philadelohia, pp1172-1192, 2006
3)Malangoni MA, Rosen MJ:Hernias. In Townsend CM Jr, Beauchamp RD, Evers BM, et al (eds): Sabiston Textbook of Surgery, 18th ed, Sunders, Philadelohia, pp1155-1179, 2008
4)堀 隆、横森欣司、松本正智:女児鼠径ヘルニアの特徴、小児外科1986;18:328-332
5)松岡由紀夫、長尾和治、樋口章浩、他:未熟児鼠径ヘルニアの特徴と治療方針、小児外科1993;23:1315-1318
6)嵩原裕夫、久山寿子:最新の小児鼠径ヘルニアの手術法-LPEC法を含めて-、消化器外科2009;32:377-385
7)Takehara H, Ishibashi H, Satoh M, Fukuyama M, Iwata T, Tashiro S : Laparoscopic surgery for inguinal lesion of pediatric patients. Proceedings of 7th World Congress of Endoscopic Surgery, Singapore, 2000,pp537-541