ありんくりん Vol.13  12月号

こころで良くする!糖尿病

担当 臨床心理士 西 珠美

監修 糖尿病専門医 小原 正也

はじめに ~身体の病気とこころの変化

この本では、糖尿病(身体の病気)とこころの関係についていくつかお話ししていきます。最初から通して読んでもいいし興味のあるところだけつまみ食いでも大丈夫です。
今糖尿病を抱えている方にくわえて、そうでない方にも読んでいただいて、何か一つでもお役に立てるとうれしく思います。

私たちが慢性疾患(完治することはなく、ずっと抱え続けていかなければならない病気)になった時、私たちのこころは、下の図のように大きく揺れ動きます。

慢性疾患の場合は、定期的な通院や服薬、食事管理などのセルフケアが日常に及ぶため、これまでの生活パターンに実際の変化が生まれます。さらに、長期間病気と付き合う分、人生のステージの変化にも対応しなければなりません。
それらに対してこころが変化していくのは自然なことなのです。

こころ糖尿病の関係

糖尿病とこころはお互いに影響し合っています。まずは、こころが糖尿病に与える影響を見ていきましょう。

①ストレス は血糖コントロールに悪い影響を与えてしまいます。特に、「血糖コントロールがうまくいかない」こと自体が糖尿病に関するストレスを高めてしまい、それが悪い影響を与えて血糖コントロールがうまくいかずという悪い循環が起きやすくなります。(詳しくはこちら)
②周囲からのサポート を大きく感じている方は、血糖コントロールが良くなりやすいです。その要因として、一つは周囲のサポートによってセルフケア行動がうまくいくということが考えられます。もう一つは、自己効力感 という感覚が挙げられます。

自己効力感ってどんなもの?

「自分は〇〇(行動)ができる」という能力についての見込み感のことを言います。自分が必要な行動をうまくできる(達成できる)という、自分の可能性を信じているということです。

自信とどうちがうの?

自信

成功、失敗といった行動した後の 実際の結果によって上がったり下がったりする。

自己効力感

自分の能力に対する信念なので、行動の結果に 直接左右されない。

自己効力感が高いのと低いので何が違うの?

「自分には達成できる力がある!」と信じていますが、自己効力感が 低い人 は、「自分には達成できる力がない 」と思ってしまいます。なので、自己効力感が高い人は行動を起こすことへの抵抗感が少なく、 新しい行動に何度でも挑戦しやすいのです。自己効力感が低い人は、能力がない(できない)と思っているので、そもそも 行動を起こしにくい と考えられます。

自己効力感を高めるには、次の4つが有効と言われています。

成功体験

•過去に似たような行動の成功体験がある。
•実際にやってみて、行動が達成できた。

セルフケア行動の達成

代理的体験

  • 自分に経験が無くても、他人がするのを見たり聞いたりする。
  • 成功した人の経験談を聞く。

周囲からのサポート

言語的説得

  • 仲間や医療者・家族など、周囲の人からの励ましや承認(頑張ったことを認められる、ほめられる)。

周囲からのサポート

生理的・情動的状態

  • 自分の生理・感情状態が程よくコントロールできている。
  • 身体のリラクゼーション(詳しくはこちら)

感情のコントロール

やってみてできたら、またやりたくなる!

でも新しいことをやってみるのが大変

そうなんです!人間は「いつも通り」が心地良く、変化は恐ろしいもの。そのため、脳は新しい習慣をつけようとすると抵抗し、現状維持に努めます。

新しいことを始める3 つのコツ

目標のハードルは低く しよう!

最初の一歩には一番大きな「やる気エネルギー」が必要。自分にとって一番取り組みやすく、しかも簡単にできるものから始めていきましょう。時間:スキマ時間を使うなど、今の生活時間を大きく変えないように。
方法:何かの「ついで」でできること(なるべく階段を使う、スーパーの駐車場は離れたところに停めるなど)。ごほうび:マイルールを決めて、できた時にはきちんと自分にごほうびを用意する。

余裕をもってスケジュールを決めよう!

日常生活には「急な用事」や「突発的なイベント」は付きもの。やることを決める時は、窮屈になりすぎず、ゆとりのあるスケジュールにしましょう。

例)「毎日」ではなく「週に4 回」(残り 3 日は予備日)時間帯は朝食後でも夕食後でも寝る前でもOK にする

目標の邪魔になる行動はわざとできないようにする!

例えば「間食をやめよう!」と決めても、家にお菓子の買い置きがあるとついつい手が伸びてしまいますよね。
このように、できない原因はもしかしたら自分の意志の強さではなく、身の回りの環境にあるのかもしれません。
目標を決めたら、目標の邪魔になってしまうことがなるべくできなくなるように、周囲の環境を一度見直してみましょう。

糖尿病こころの関係

糖尿病がこころの健康や調子に影響することもあります。まず2 ページの図にあったように、血糖値が高い(コントロールがうまくいかない)ことがストレスになり、悪循環がつくられる可能性があります。もう一つは、「自分自身が自分自身(の疾患)へ持つ偏見」 がこころの健康に影響を与え、糖尿病の治療にも影響する可能性が示されています。この「偏見」を セルフスティグマ と言います。

「0 か 100 か」(二者択一)では気持ちが苦しくなり、自分をしばりつける縄(セルフスティグマ)がより強くなってしまいます。「10 か 20 」「 60 くらい」など、 自分なりの中間 を見つけてみましょう。

ストレスで血糖値が上がる?! ~糖尿病とストレス

糖尿病とこころの関係で忘れてはならないのが、ストレスです。

ストレスがかかると、

身体の「たたかう」スイッチがON!
交感神経が活発になり、脳・身体がフル回転

色々なホルモンが分泌される
・グルカゴン
・アドレナリン
・甲状腺ホルモンなど
・コルチゾール
これらは血糖値を上げてしまう!

とはいえ生きているうちはストレスは必ずついてくるもの。身体のためにも、こころのためにも、ストレスとうまく付き合っていくこと が大切になります。

「身体やこころの健康に悪い」と知覚された出来事をストレッサーと言います。そして、それぞれの人のストレッサーへの反応(考え・身体症状・気持ち・行動の変化)をストレス反応 と呼び、この二つを 「ストレス」 と言うことが多いです。

ストレスとうまくやっていくコツ①

一見当たり前のことに思われるかもしれませんが、毎日の食事と睡眠を十分にとることは、ストレスのダメージを減らしてくれます。

この1 週間のことを思い返してみてください。
睡眠: 1 日あたり何時間くらい眠りましたか?
睡眠時間は十分でしたか?
食事・水分:定期的に食事や水分をとりましたか?

よい睡眠をとるために

①眠りと目覚めのメリハリを

日中は適度に運動し、朝はしっかりと朝食をとって脳を目覚めさせましょう。寝る前のアルコール・カフェイン・喫煙は眠りの質を下げてしまいます。

②眠るときの環境をチェック眠る

2 時間前はパソコン・スマホ・ TV 画面を見過ぎないようにしましょう。これらの光はブルーライトと言って、眠気を起こすホルモンの分泌を抑えてしまい、寝つきを悪くしてしまいます。また、お風呂の時にぬるめのお湯に
ゆっくりつかるのも効果的です。

③寝るのは眠くなってから、起きるのはいつも通りの時間で

眠くなってから寝床に入り、朝は一定の時間に起きて太陽の光を浴びましょう。夜眠くない時は、目をつぶって横になるだけでも脳は休まります。

ストレスとうまくやっていくコツ②

ストレスを感じると、知らないうちに身体が緊張したり、呼吸が早くなっていたりします。その 緊張を解いてあげたり、呼吸のリズムを整えてあげることで、こころも落ち着いていきます。
「ながら」作業で全然OK !心身ともにほぐしてみましょう。

呼吸のリズムを整えてみよう

①椅子に浅く座り、片手をお腹に置いて息を吸ったり吐いたりします。息を吸うとお腹がふくらむのが腹式呼吸です。
②一度大きく息を吸って、お腹を大きくふくらませます。そして口から細く長くゆーっくり息を吐いていきます。
③もう一度大きく息を吸って、お腹がふくらんだらちょっと止めて、口からゆっくり息を吐いていきます。吐く息と
一緒に不安やイライラが身体の外に出ていきます。
※② ③を何度か繰り返します。

身体の緊張をほぐそう

① 椅子に浅く 座ります。両腕を組んで前に出し、右、左と動かしてみましょう。自分が気持ちいいと感じるところまでで大丈夫です。
②真上に腕を戻して、ぐーっと伸びをします。できる人は少し後ろにも反らしましょう。
③ゆっくり、またはすとんと力を抜いてください。どちらが気持ちいいと感じるかは個人差があるので、自分の好きな方で大丈夫です。
④両肩を高く上げて、ゆっくり10 秒数えます。呼吸は止めずに楽にしていてください。10 数えたらゆっくり、またはすとんと力を抜きます。

おわりに

こんな時は、ぜひスタッフにお声がけください。
眠れない・食欲がわかないなど、睡眠や食事(生活の基本的なこと)に問題があるのが続いている。
自分のこと、家族のことで悩んでいて誰かに話したいが、周りの人には話したくない。人には言えないことだが相談してみたいことがある。
ストレスの対処法が分からない。
自分・家族の認知症が心配、物忘れが気になる、認知症の検査をしてみたい。

ハートライフクリニックには臨床心理士(こころの専門家)がいます。ご希望があれば、また必要に応じてカウンセリングや認知症の検査をしています。診察の時にお気軽にご相談ください。

こころというものは、生まれた時から死ぬときまで私たちの一番近くにあるものです。でも、時には意思と違う動きをして私たちを振り回したり、ささいな出来事でも大きく揺れ動いてしまったり、自分のこころなのにうまくやっていくのがとても難しくなる時が誰にでもあります。もしそんな時が来て、困ったり悩んだり苦しかったら、どうぞお手伝いさせてください。それぞれのこころとうまくやっていける道を、一緒に探していきましょう。

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