ありんくりん Vol.15 「知ろう!防ごう!認知症」
担当 臨床心理士 西珠美
監修 糖尿病専門医 小原正也
協力 疾病運動予防施設 リューザ/ヘルシーカフェ オハナ
認知症って何だろう?
これから誰もが関わり得る「認知症」。認知症の症状や糖尿病との関係、発症や進行を遅らせるためにできることは何でしょうか?
認知症は「物忘れ」だけじゃない!
認知症と診断される条件は3つあります。
- 何らかの理由で起こった脳の疾患(病気)によって、
- いったん本人が身に付けた認知機能(脳の働き)が障害され、
- 1人で日常生活や社会生活を送るのが難しくなる。
この3つすべてがそろわないと、認知症とは言えません。
脳の疾患
•脳が小さくなってしまう、性質が変わってしまう
•脳の血管の詰まり、出血 など
認知機能障害
•物忘れ、判断力の低下
•見当識の低下(今がいつで自分はどこにいるかなどが分からない)
•言葉の出づらさ など
生活の障害
•お薬や注射の管理が難しい
•予定を立てて行動するのが難しい
•買い物やお金の管理ができなくなる など
認知症の症状
認知症の症状には中核症状と周辺症状の2つがあります。
中核症状のうち、記憶障害=物忘れは年齢を重ねるうちに自然に起こるものもありますが、次のような点が大きく違います。
- 体験したこと全体を忘れてしまう。(<例>「先月旅行に行った」という体験がある場合、旅行したことそのものを忘れてしまう。)
- 物忘れだけでなく、他の中核症状も同時に見られる
- 物忘れが進むスピードが速い(急に物忘れが強くなる)
認知症の種類
認知症は、大きく分けて4つの種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症の大半を占めており物忘れが主な症状で徐々に進行します。本人の自覚は乏しいです。脳の神経細胞の周りにアミロイドβ(ベータ)たんぱくが多くたまることで起こります。アミロイドβたんぱくは通常、酵素で分解されますが、インスリンを分解する酵素もこのたんぱくの分解をお手伝いしています。2型糖尿病でインスリン抵抗性が増すと、血液中の余分なインスリンを分解する仕事の方に酵素の手が取られてしまうため、アミロイドβたんぱくの分解まで手が回らなくなってしまいます。そのためアルツハイマー型認知症の危険性が増すのです。
血管性認知症
多くは脳の動脈硬化によって脳の血流が低下し、大脳白質や脳の深いところに梗塞などを起こして認知機能が低下します。意欲の低下やろれつが回らない、歩くのが不安定になる、などが見られやすいですが、本人の中でできることとできないことにバラツキがあるのも特徴の1つです。
レビー小体型認知症
- 実際にはいない人などが見えるリアルな幻視
- ある物を間違えて他の物として認める誤認
- 手足の筋肉が硬くなり動きが鈍く・少なく・遅くなる
- 頭がはっきりしている時間と幻覚に振り回される時間と症状が大きく変動する
- 夜中に夢を見て大声を出したり立ち上がったりするなどの特徴的な症状が見られます。
前頭側頭型認知症
タウたんぱくやTDP-43というたんぱくが脳にたまり、思考や感情・判断・制御をつかさどる前頭葉という部分を中心に萎縮してきます。そのため我慢ができなくなったり、すぐに怒ってしまったり、注意を向ける先がコロコロ変わったり、道順を決めて同じ所をぐるぐると徘徊したりします。
また、近年は「軽度認知障害」という考えも注目されています。
軽度認知障害(MCI)
「記憶などの認知機能が低下していても、生活管理能力は保たれていて認知症とは言えない状態」のことを言います。
認知症の手前の段階で、数年後に認知症に移行する危険性が高いですが、この段階で予防策を取れば発症を遅らせることができます。
糖尿病を抱える高齢者の方はこの軽度認知障害になりやすいので、注意が必要です。
アルコールの摂り過ぎは脳の萎縮に、タバコは脳の血管の詰まりに繋がってしまうため、認知症のリスクも高くなります。認知症を予防するためにも、節酒と禁煙はとても大切です。
認知症を予防するために
認知症の予防は「認知症にならない」という意味ではありません(残念ながら…)。「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行をゆるやかにする」という意味です。
① 食生活で予防!
肥満、高血圧、2型糖尿病などは認知症のリスクを高めます。摂取エネルギーはひかえめにしましょう。お肉よりもお魚がオススメです。また、アルツハイマー型認知症の予防にはポリフェノールが有効だと分かっています。野菜や果物からとりましょう。
② 運動で予防!
運動すると筋肉を使いますが、その筋肉から海馬(脳の記憶に関する場所)で大切なホルモンを「増やせ!」と指令が出ます。このホルモンは海馬の神経細胞を育てる肥料なのです。中高年の方が運動すると海馬が大きくなり、認知症になるリスクを減らせます。
③ 何より笑顔で予防!
笑いは「ユーモアを理解し面白いと思うから起こる行動」で、意外と高度な脳の働きです。笑う機会が無い人はほぼ毎日笑う人と比べて認知機能低下のリスクが3倍以上とも言われています。病気を恐れ過ぎず、笑顔を忘れずに過ごしましょう!
糖尿病と認知症
「認知症を予防するポイント」、何だか聞いたことある内容だったような…
認知症を予防することは、毎回の診察で聞いていること=糖尿病の治療、セルフケアと一緒の部分が多いのです。
前述したように、インスリンが効きにくくなり血液中のインスリン量が多くなると、インスリンの分解で酵素が忙しくなり、アミロイドβたんぱくが分解されにくくなります。このたんぱくが脳にたまることがアルツハイマー型認知症の原因です。
また、重症低血糖や血糖変動が大きいことも、認知症のリスクを高めることが最近の研究で分かってきています。
血糖値が高い状態が続くと血管にも悪い影響を与えてしまいます。脳は細かい血管が張りめぐらされており、血行が悪くなったり血管が傷ついてしまうことにとても弱いのです。
脳の血管が詰まったり傷ついて出血したりすると、脳血管性認知症のリスクが高まります。
*肥満や運動不足、脂質の多い食事などインスリンが効きにくくなるような要因を減らす
*高すぎず低すぎず、安定した血糖値を保つという、糖尿病のための治療は、実は認知症を予防することにもつながり一石二鳥なのです。
周囲の方へ~認知症の方を理解するために~
認知症は、発症したご本人だけでなく、本人を支える周囲の方々にも時に大変な思いをもたらします。本人と親しい人であればあるほど、以前の姿とのギャップに戸惑ったり、腹が立ったりすることもあるかもしれません。
アルツハイマー型認知症の方を理解するポイント3つ
①「今」はあっても「さっき」がない
私たちは色々な情報を記憶という形で積み重ねることで「今」を把握しています。「さっき」は「今」に繋がる過程や状況なので、それを忘れてしまうと「なぜ現在の状態になったのか?」が分からず、戸惑いや不安、被害的な気分を覚えてしまいます。
②「さっき」がなくても「昔」はある
遠い昔の記憶や子供時代の思い出は頭の中に残っています。時には昔流のやり方にこだわりすぎて、現在とのギャップがうめられずに混乱することもあるかもしれません。
③「今」は本人の感情しだいでゆがんでしまう
今現在における環境や状況、周囲の人々への意味付けが、自分の気持ちのありようによって変化してしまいます。
(例)食事をしたのに「ご飯を食べさせてもらえない」と不満を言う。
→食事したことを忘れてしまう(①)のに加えて、「食事が用 意されない=大切にされていない」という不安を感じると、その不安が『食事を用意してもらった「今」』を、『食事さえ用意されない「今」』へと変えてしまう。
周囲の方へ~認知症の方と関わる時は~
たとえ同じ種類の認知症でも、周辺症状(2ページ参照)の表れ方はそれぞれの人で異なります。そのため認知症の方との関わり方も「こうすれば全部OK」というハウツーはありません。そのかわり、ここではいくつかのヒントをお伝えします。少しでも参考になればうれしいです。
認知症の方と関わる時のヒント
例)1時間前に夕食を食べたのに「食事も食べさせてくれないのか」と不満を言われた時
前述したように不満の裏には「自分は大切にされていないんじゃないか」「食事を用意してもらえないのでは?」という不安が隠れています。
それが分かると、相手に話を合わせて「心配せずとも食事は必ず出てきますよ」という用件を伝えることができます。
伝え方としては、テーブルにお箸を並べたり、台所で用意しているような音を立てるなど、相手の話の中の願望を実現するのも一つの方法です。
相手の話に合わせるのがまずい時もあります(例:「財布を家族に盗まれた!」と騒ぐ)。そんな時は、相手の話を「似ているけど少し違う話」にずらしてみてください(「一緒に財布を探す」話にする)。
そして一番大事なことは…
周囲の方の気持ちに余裕があることです。そうでなければ相手の話が何なのかを理解することも、うまく話に合わせることもできません。本人のケアも大事ですが、周囲の方自身のケアも同じくらい大切です。
もし認知症が心配になったら…
「自分の認知症が心配…」「そういえば最近家族の様子が気になる…」など、認知症に関する心配がある場合はどうしたらよいのでしょうか?
① まずはかかりつけ医に相談を!
定期的に通院している病院がある場合は、まずは主治医の先生に相談してみてください。認知症の診断は専門の医療機関でなければできません。かかりつけの先生から紹介してもらうことで、スムーズに受診できます。
② 認知症の専門医療機関を受診
沖縄県には、県が指定した「認知症疾患医療センター」という、認知症に関する相談・連携の窓口となる医療機関があります。お住まいの地域ごとに担当のセンターが設置されているので、お近くの病院を受診しましょう。
③ かかりつけ医での治療を継続
専門医療機関での検査結果や診断は、かかりつけ医に報告されます。もしお薬が必要な場合は、かかりつけ医で継続できます。